ガチバカ!第六話

TBS系ドラマ「ガチバカ!」。旺季志ずか脚本。Arca音楽。主題歌(終曲)倉木麻衣ベスト オブ ヒーロー」&(序曲)AAA「ハレルヤ」。貴島誠一郎チーフプロデューサー。橋本孝プロデューサー。ドリマックス・テレビジョン&TBS制作。竹村謙太郎演出。高橋克典主演。第六話。
ヒロこと深田裕之(石田卓也)の境遇が惨めで、見ていて悲しかった。惨めさを際立たせるのは、彼には既に夢があるという輝かしい事実に他ならない。夢がなかったならどんな状況にもどんなことをしてでも乗じてゆけるかもしれないが、夢に向かって動き出しているときにはそうもゆかない。進路に立ち塞がる障害を一々乗り越えなければならなくなるからだ。
彼の夢は建築士になって橋の設計を手がけること。そのためには大学の建築学科を受験し、合格し、入学しなければならない。しかるに彼の場合、単に経済的な理由から、高校を卒業できるかどうか、卒業まで在籍できるかどうか自体が既に難しかった。幼時に両親が離婚したため母子家庭で生活は貧しく、しかも母の美雪(麻丘めぐみ)は今、病気で入院を強いられていた。経済的な困窮は極まり、高校の授業料さえも払えない有様。大学に合格した暁には「教育ローン」で何とかすると母は語るが、その前に先ずは授業料を稼がないことには話にもならない。彼は学校を休んで工事現場で働き始めたが、丁度そのとき学校では盗難騒動があり、無断欠席の上に授業料滞納でもある彼が疑われてしまった。心身ともに追い詰められているところに名誉までも傷付けられては耐え難かったろうが、それでも彼は不屈の闘志で工事現場での労働を続けていた。夢があるから強いのだ。そんな彼に舞い込んだ朗報。大学の建築学科に合格したのだ。この喜びを母と分かち合うため病院に走ったが、どういうわけか母は悲しげな表情のまま。入院中で休職中の者は「教育ローン」を受けられないということが判明して、それで落ち込んでいたのだ。子供の夢を何としても叶えたかった母にとって救い難い大打撃だが、もちろんヒロにとっても大打撃だ。夢のために頑張っていたのに、夢に向かう道さえも絶たれるのか。喜びから絶望への転落。
こうして際限なく追い詰められたヒロの苦境が余りにも呆気なく逆転されたのは「ガチバカ」なのだから仕方ない。とはいえ問題は完全に解決したわけでもない。高校の授業料の問題は解決したが、大学の入学金の問題は未解決。ここでの彼の決断は、高校卒業後一年間を労働と勉強に費やして学費を自力で稼ぎ、改めて受験するということにあった。実に前向きで潔い決意。そもそも「教育ローン」で母が後々までも返済に苦労するかもしれないこと自体がヒロには耐え難いことではなかったろうか?と想像してもよいだろうか。
ともかくも深田裕之を演じる石田卓也は禁欲的な苦味と官能的な甘さを兼ね備えた俳優で、今宵の惨めな境遇の話を実によく演じていたと思う。
ヒロが、普段なら何でも正直に相談できる大親友であるはずの井上耕太(増田貴久)・中村雅志(斎藤慶太)・御木本健児(橋爪遼)に何も相談しなかった理由は明快だ。宇津木実(手越祐也)が云った通り。耕太・雅志・御木本が何もできなかった理由も同じこと、ヒロの思いを想像してのことだが、三人がヒロの件について無反応を貫くことを決断するにあたり、雅志が抵抗し、なかなか納得しなかった意も分かり易い。第五話で描かれた通り彼にとっては友人四人組の連帯こそが精神の拠り所だからに他ならない。