神はサイコロを振らない最終回

日本テレビ水曜ドラマ「神はサイコロを振らない」。大石英司原作。水橋文美江脚本。櫨山裕子&内山雅博プロデュース。仲西匡&吉川慶音楽。主題歌=Ryohei feat.VERBAL(m-flo)「onelove」。オフィスクレッシェンド制作協力。小林聡美山本太郎主演。佐藤東弥演出。第九話=最終回。
歴史的な過去の事実への未来からの抵抗が所謂パラレル・ワールドを生み出すという結末は殆ど必然の道理ではあるだろう。黛ヤス子(小林聡美)や黛菊介(武田真治)や甲斐陽介(尾美としのり)や加藤久彦教授(大杉漣)や大屋本部長(岸部一徳)や板倉将(升毅)の生きる現在のこの世界は、木内哲也(山本太郎)や竹林亜紀(ともさかりえ)や後藤瑠璃子(成海璃子)等を乗せた東洋航空402便が十年前に消失して現在に至るまで戻ってきていない世界として存続しなければならない。そして物理学好きな少年、甲斐航星(中村友也)の発想と考案と、加藤教授の計算と、木内哲也の行動によって恐らくは消失を免れ得た東洋航空402便の人々は、消失を免れなかった現在のこの世界とは別の世界に生活し続けているはずなのだ。
ともあれ、今宵のこの最終回における最大の見所がそうした二つの世界が分裂し始めたはずの瞬間の描写にこそあったのは明白だ。そのとき東洋航空402便の人々は現在のこの世界から静かに消え去った。余りにも静かな消滅だった。例えば甲斐兄弟。弟の航星は生き残りの可能性に賭けて、十年後のこの世界での毎日を物理学上の構想と計算と設計に費やしていた。無論それは彼自身のためでもあったが、運命をともにした東洋航空402便の人々皆のためでもあった。わずかな日々を自分一人のために楽しく過ごすという考えは彼にはなかった。その点で彼は実によく兄を見習っていた。彼の尊敬する兄、陽介は「遺族会」代表としての役割に日々を過ごしていて、弟の航星とともに残された貴重な数日間を楽しく過ごすだけの余裕は一切なかった。そんな二人が、最後の日の夜、ホテルの同じ部屋で一緒にチェスをして遊んでいた。束の間の団欒のとき。だが、兄が不図気付いたときには既に弟は消滅していたのだ。パソコン画面上に兄への感謝の言葉だけを残して。