大河ドラマ風林火山第九話

NHK大河ドラマ風林火山」。原作:井上靖。脚本:大森寿美男。音楽:千住明。主演:内野聖陽。演出:田中健二。第九回「勘助討たれる」。
山本勘助内野聖陽)の「討たれた」場面の、あの奇妙な寒さ。武田晴信市川亀治郎)は板垣信方千葉真一)に対し勘助を斬らないよう命じ、自ら斬ることを宣言しながらも実際には斬らないで、「討ち取った」ことにしてしまった。しかもそのことに誰も疑問を抱かなかった様子。あんな危険な人物を生かしておくとは何とも物騒な話だが、誰もそうは思わなかったようだ。しかし確かにあの処刑は斬る以上の打撃を勘助に与えた。板垣の使者として駿河に来た伝助(有薗芳記)が市で見出したのは、かつては全身に漲っていたはずの活力を今や失った惨めな勘助の放浪する姿だったのだ。
あの処刑の場にいた大勢の連中、中でも勘助を「偽軍師」呼ばわりした平賀の残党が何を感じ何を考えていたのか知らないが、少なくとも板垣信方にだけは、紛れもなく見えていたに相違ない。「自ら地獄に堕ちた」勘助の無惨な行く末が、あの瞬間の彼には既に確かに見えていたに相違ないのだ。
しかし武田晴信は一体どうして勘助をあのように処分したのだろうか。海ノ口城における勘助の、まさしく真の軍師と称してよい程の見事な戦いようを一方で恐れ、他方で惜しんだからではなかったか?と考えておきたい。
武田信虎仲代達矢)が祝宴の席上、自らの後継者として晴信ではなく武田信繁嘉島典俊)を指名した場面。理不尽な恐ろしさに満ちた「大殿」信虎、怒りと絶望感に堪えようとしていた晴信、居心地の悪そうな信繁、周章狼狽の家臣団。あの場面には様々な感情が渦巻いていた。他方、信虎が諏訪頼重小日向文世)に対し娘の由布姫(柴本幸)を側室として差し出すよう求めた場面にはエロティクな気配が充満していた。「よい音を出すであろう」という言を聞いたとき諏訪頼重は屈辱感で気の遠くなる思いではなかったか。