渡る世間は鬼ばかり第四十九話

TBS系。「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。作:橋田寿賀子。音楽:羽田健太郎。ナレーション:石坂浩二。プロデューサー:石井ふく子。演出:荒井光明。第八部第四十九回。
東京大学の学生、小島眞(えなりかずき)の惨めな失恋。とはいえ野々下加津(宇野なおみ)に云わせれば失恋でさえなかった。なぜならそもそも相手の吉野杏子(渋谷飛鳥)は恋の対象として眞を見てはいなかったからだ。杏子には幼時からの片想いの相手あり、それは浅草にある実家の手拭屋で職人として働く男だった。愛称は「へいちゃん」。石坂浩二か。杏子に姉あり、職人「へいちゃん」と結婚して家の手拭屋を継ぐ予定だったが、実は恋人がいたらしく家出して駆け落ちをしてしまったので、代わりに杏子が「へいちゃん」と結婚して家業を継承することに決し、併せて東京大学を中途退学することに決したと云う。杏子の実家の手拭屋にとってその職人「へいちゃん」が何としても手放せない不可欠の人材であるという事情を抜きにしても、実のところこの展開は杏子にとっては幼時から心に秘めていた恋が目出度く成就することでもあり、この話を喜んで受け容れたと云うのだ。東京大学を辞めることも何ら惜しくはないらしい。そればかりか、杏子にとって眞とは、女を性欲の対象として狙うことも襲うことも決してなく、ゆえに登山であれスキーであれ宿泊の旅行に一緒に行っても何事もないと確信できる極めて安全な男、云わば恋愛に発展することのない友情を育める稀有の男だったと云うのだ。眞の「失恋」の惨めである所以がそこにある。