桜台の小塚老人

かつて「無責任男」を演じて一世を風靡したコメディアン植木等が逝去した。享年八十。昨日の午前のことだったらしい。今朝のテレヴィでは、日本テレビ系「ズームイン!!SUPER」でも「スッキリ!!」でも他の各社の番組でも大々的に報道されていた。色々な業績、色々な話が伝えられたが、中で興味深かったのは「スーダラ節」に関する話。昨年十二月二十日に七十四歳で逝去した青島幸男の作詞によるあの名歌の楽譜を渡されたとき、植木等は当初その歌詞の余りの軽さ、くだらなさを嫌がり、歌いたくなくて悩んでいたというのだ。ところが、実家の浄土真宗の寺で住職をしている父に相談したところ、歌詞の内容が真理を説くものであること、ことに「わかっちゃいるけど、やめられない」という歌詞が親鸞聖人の教えに通じることを云われ、激励され、それで決意して歌ったのが、昭和三十年代の人々の心を捉えたのだ。実に深い話であると思った。植木等の全盛時代を同時代のこととしては見ていない年齢の者にとって彼の代表作としてはドラマや映画を挙げざるを得ないが、私的に第一に挙げたいのは二〇〇二年四月から三ヶ月間、毎週木曜の夜に放送されたフジテレビ系ドラマ「ビッグマネー!浮世の沙汰は株次第」。原作は石田衣良「波の上の魔術師」で、主演は長瀬智也植木等が演じたのは、白戸則道(長瀬智也)に「株」の道を伝授する「桜台の爺さん」、「伝説の相場師」こと小塚老人。波多野テルコ(八千草薫)を愛する純粋な面と、正義に反する大銀行を潰してみせる熱血な面、さらには白戸青年の申し出に甘えて彼を犠牲にしてしまう冷酷な面をも兼ね備えた颯爽とした老人だった。