大河ドラマ風林火山第四十二話

NHK大河ドラマ風林火山」。演出:田中健二。第四十二回「軍師と軍神」。
甲斐の軍師、山本勘助内野聖陽)と、越後の「軍神長尾景虎Gacktガクト)が高野山で遭遇。勘助は崇拝する諏訪の由布姫(柴本幸)を亡くした悲しみから、喪に服する意で高野山の清胤(佐藤慶)を訪ね、他方、景虎は家臣団の間の利害の調整という己の役割を面倒くさく思い、ついには家臣と喧嘩して気分を害し、公務を放棄して出奔し、高野山で修行生活に入ることに決めて、同じく清胤を訪ねたところだった。行為としては同じことでも動機には大きな差がある。さらに山中で読経をしていた景虎に勘助が話しかけようとしたとき景虎は勘助の話を聞こうともせず問答無用で斬りかかり、勘助が何度も冷静に話しかけようとも、師の清胤に叱られて止められるまでは止めようとはしなかった。こうして見ると、聖人君子を気取る景虎が思いのほか未成熟な俗物で、勘助の方が大人であるように思えてくる。そのとき、勘助が景虎に対し、武田晴信市川亀治郎)の徳は景虎には一生かかっても解し切れないだろうと告げたことの説得力が増してくるだろう。フィクションとしての歴史ドラマならではの実に大胆で面白い挿話だったと思う。翌朝、勘助と景虎の二人が仲よく並んで朝食を食っている姿の間抜けさ加減は最高に面白かった。
原虎胤(宍戸開)の娘、リツ(前田亜季)は予てから勘助に求愛、求婚してきて、晴信と由布姫もリツの願望を叶えたいと考え、姫に至っては遺言として勘助にリツとの結婚を命じていたが、高野山から戻った勘助はリツを養女として家に迎え、やがては立派な婿殿を迎えて山本家を継がせたいと提案。これに対する晴信の「そう来たか!」の言は、勘助が女と結婚することはなかろうと最初から見抜いていたことを物語る。かつての「源五郎春日虎綱田中幸太朗)のような、賢い美男子を婿殿に迎えたいのだろうか。ともあれ勘助は、高野山で清胤より授かった新たな摩利支天の御守を新たな山本家の家宝とし、娘リツにそれを預けた。摩利支天の妻=ミツ(貫地谷しほり)、摩利支天の姫=由布に続く三人目の女、摩利支天の娘に他ならない。四郎(池松壮亮)に従って去った志摩(大森暁美)も案外、摩利支天の侍女だったろうか。