スクラップ・ティーチャー第五話

日本テレビ系。土曜ドラマ「スクラップ・ティーチャー 教師再生」。
脚本:江頭美智留水橋文美江。音楽:吉川慶&Audio Highs。主題歌:Hey!Say!JUMP「真夜中のシャドーボーイ」。プロデューサー:櫨山裕子&内山雅博。制作協力:オフィスクレッシェンド。演出:南雲聖一。第五話。
このドラマが全体で何話からなることになるのか今のところ定かではないが、恐らく今宵の第五話には特別な重要性があったと云えるだろう。物語の全体を貫く主題を明確に呈示したからだ。
先ずは(一)冒頭において、城東区立第八中学校の2年D組の教諭、杉虎之助(上地雄輔)が、校内の菜園で野菜を栽培している吉田栄太郎(知念侑李)相手に、「野菜作りと先生の仕事は通じるところがあるよ」と語る場面があり、次いで(二)中盤、夕暮れ時の校舎内、久坂秀三郎(中島裕翔)が杉先生に、先生からパワーをもらって、頑張ることができている生徒が増えてきていることを嬉しそうに語ったところ、杉先生が、逆に自分の方こそ生徒たち皆からパワーをもらって、頑張ることができていると語る場面があった。
しかし何と云っても決定的だったのは、(三)今宵の第五話の終局における高杉東一(山田涼介)と杉先生との対決の場面だろう。「どれだけ足掻こうと、あなたも悲しい大人の一人に過ぎない」「子どもたちに尊敬されないなんて悲しいですよね」「無様ですよ」と云い放った高杉に対して、杉先生が「教師だけの問題かな?学校は生徒と先生が一緒になって作ってゆくものなんじゃないかな?諦めないでくれ、そんな風に。大人のことを、先生たちのことを、諦めてしまうなら、悲しいのはそっちもだよ。そっちも悲しくて、情けなくて、寂しくて、…無様だ」と応じたことだ。
ここで改めて本年四月十二日放送の日本テレビスペシャルドラマ「先生はエライっ!」のことを想起しておこう。この二時間ドラマと現在放送中の「スクラップ・ティーチャー」は、水橋文美江の脚本と櫨山裕子プロデュースによる日本テレビの作品であり、しかも中島裕翔等四人のアイドルを主人公としている点において似ているが、番組の雰囲気は全く違っている。その違いの意味が今宵の第五話において示されたと云える。駄目な先生を「よい先生」に変えるために生徒たちが大活躍をするというのは両作品に共通する課題ではあるが、「先生はエライっ!」において教師は既にその課題に対する真の解答を持ち合わせていて、あとは生徒たちがそれに気付いてくれるのを待つだけだった。それに対して「スクラップ・ティーチャー」では、多分、誰も正解なんか知らない。ただ、諦めない生徒=久坂秀三郎と、諦めない先生=杉虎之助が出会い、互いに信頼し合い、励まし合う中で、それぞれに「よい先生」「よい生徒」であろうと頑張っているだけなのだ。だが、教育に関して正解なんかが容易に判るようなら誰も苦労はしない。「先生はエライっ!」における正解にしても、要は己自身を鍛える以外に道はないことを教えただけであって、努力もなしに苦難を乗り越える近道が何かあるわけではないのだ。
その意味において、毎回このドラマのどこかに挿入される杉先生と久坂との会話こそは、杉先生なりの「解答」を見つけ出そうとする思索、模索の過程を表現するものに他ならないだろう。
夕陽に照らされた校舎内の、漫画研究部の部室内。杉先生は久坂に、「みんながいるから先生は頑張れる」と云って漫画研究部の二人の女子に言及したあと、まるで序でに云うようにして「もちろん久坂だって」と付け加えた。それでも久坂には嬉しくて、照れくさかったのか、「いや、俺は別に…」と困ったように云ったが、杉先生の本当の思いがそのあとに明かされた。「そこにいてくれるだけでいいんだ。先生を見てくれるだけで」。確かに久坂は何時でも杉先生の頑張りを見守っているし、教室内の皆のためにも頑張ろうとしていて、そして、皆の頑張りを支援するため、さらに皆の頑張りを支援するために頑張っている杉先生を協力するためにも、何時でも頑張っている。杉先生に対する久坂の圧倒的な信頼が杉先生を励ましていて、そうして励まされた杉先生の頑張りが生徒たちをも激励しつつある。杉先生は何時でも頑張っているが、そのためには、杉先生をどこまでも信じる久坂の存在が何時でも必要不可欠だった。「教師再生」の鍵はそこにしかないと思われよう。
吉田栄太郎は既に杉先生に魅了されつつあり、ゆえに久坂に共感を抱きつつあるが、高杉と入江杉蔵(有岡大貴)の二人はそれを非難し、教師を信頼してはならないことを主張していた。吉田が三人組から離れて久坂とともに歩み始める日は来るのだろうか。