セレブと貧乏太郎第七話

フジテレビ系。「セレブと貧乏太郎」。
脚本:古家和尚。音楽:山下康介。主題歌:いきものがかり「気まぐれロマンティック」。挿入歌:Safarii「Hero」。プロデュース:土屋健。演出:佐藤源太。第七話。
美田園アリス(上戸彩)の自伝を刊行する予定が一年前からあり、そのための原稿は出版社側によって既に準備されていたが、その内容はアリスの継母の美田園真紀子(若村麻由美)を無用に礼賛する文章で満たされていた。アリス自伝を刊行するという話それ自体が、真紀子を美化して存在感を高めるための後藤田司(柏原崇)の陰謀だったらしいが、アリスはそのことにまでは気付かなかった模様。件の原稿こそ破棄したものの、自伝を刊行する計画はそのまま受け入れた。望ましい原稿を作成すべく、重臣の郡司康夫(風間杜夫)は世界各国の著名人の自伝のゴーストライターをつとめた実績のある仁志山達夫(佐戸井けん太)を雇ったが、当の仁志山と接触すべく待ち合わせ場所に自ら赴いたアリスは、そこで間違って結婚詐欺師のニシヤマこと東郷十三(姜暢雄)を雇ってしまった。
…というところから始まった第七話。
その妙味は、当初こそ報酬の一億円を奪って逃亡するつもりだった結婚詐欺師ニシヤマが、佐藤太郎(上地雄輔)の貧乏一家に触れ、アリスの素顔に接したことで心を入れ換え、約束通り見事な自伝を書き上げて報酬としては一万円だけを取って黙って去ったことにある。他方、本物のゴーストライター仁志山も、安田啓一(山下真司)等と接したことで普通の商店街の人々の温かさを知って、ゴーストライターを廃業して小説家になる決意をした。安田啓一は娘の結婚相手を紹介してもらうべく結婚コンサルタントのニシヤマに会うはずが、当のニシヤマ(実は結婚詐欺師の東郷)はアリスに連れ去られてしまったため会えず、丁度、同じ場所にいたゴーストライター仁志山を結婚コンサルタントと間違えてしまったのだ。
ともかくも、こうして取り違えられた結果、結婚詐欺師とゴーストライターがそれぞれ心を入れ換えて隠れた才能を発揮し得たのが第七話の面白さだったわけだが、注目すべき点は結婚詐欺師ニシヤマの観察眼の鋭さにあるだろう。彼は、アリスの周囲に生きる人々の本質や、その人々に対するアリスの見方を的確に見抜いて殆ど容赦なくアリスの「自伝」に著した。アリスの会社において最もアリスの信頼を得ているのは新人デザイナーの安田幸子(国仲涼子)であって、河田陽子(キムラ緑子)をはじめとする出戻り組の幹部連ではない。後藤田の陰謀による「ラヴ・アリス」社員連の引き抜き騒動のことを結婚詐欺師ニシヤマが把握していたかどうかは定かではないが、アリスを取り巻く人間関係の本質を把握し端的に表現し得たのは間違いない。
今のアリスにとって太郎が最も大切な人であるというのも間違いではないだろう。それは恋愛の対象としてではないかもしれないし、結婚の対象にもなり得ないかもしれないが、アリスの財力と名声を前にして誰もが遠慮して云えなくなっているようなことでも、或いは誰も気付かないでいるようなことでも、率直な助言として投げかけることのできる友人として、太郎は安田幸子とともに今のアリスに欠かせない存在であるに相違ない。
かつて小説家を志したことのあった結婚詐欺師ニシヤマはその辺を見逃しはしなかった。重臣の郡司康夫が結婚詐欺師ニシヤマの原稿を読んで瞬時にその価値を認識したのも、その辺の洞察に感じ入ったからだろう。