渡る世間は鬼ばかり第三十八話

昨夜のテレヴィドラマについて。
TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
作(脚本):橋田寿賀子。音楽:羽田健太郎。ナレーション:石坂浩二。演出:荒井光明。プロデューサー:石井ふく子。第九部第三十八話。
新春早々、大井精機株式会社が倒産の危機か?と思わせて、今のところは危機を回避し得たようだ。社長の大井道隆(武岡淳一)の秘書をつとめる小島眞(えなりかずき)をも伴って大井家の一家は米国ハワイで正月を迎えていたが、現今の世界的な金融危機の煽りを受けたか、大井精機にも何らかの非常事態があったらしく、慌しく帰朝して社内に緊急の重役会議が召集され、各方面への渉外のため徹夜をさえ強いられたとのことだが、小島眞の交際相手でもある社長令娘の大井貴子(清水由紀)によれば、金融上の危機に伴う緊急の重役会議が召集されることは今までも度々あって、今回も同じように危機回避に成功し得たようなのだ。とはいえ、危機を回避できたというのは現段階での見込みに過ぎない。これからどのような事態の急変があるかも判らない。一つ確実に云えることは、小島眞が、社長の令娘の交際相手という立場にあることから己の社内の地位を過信していたということだ。重役会議に出席できなかったことを彼は不満に感じていたようだが、たかだか大学生のアルバイトの「秘書」がどうして重役と肩を並べることができるとまで思い上がっていたのか。世間知らずにも程がある。
富裕の人々の複雑な人間関係を描く今の「渡る世間は鬼ばかり」は、仮に今直ぐ「華麗なる一族」と改題されたとしても全く違和感がないのではないかと思われる程ではあるが、この物語世界の中心に位置する大富豪が、高級料理店「おかくら」店主の岡倉大吉(宇津井健)。そんな彼の家では、使用人の青山タキ(野村昭子)が大暴走。正月の酒で何時になく酔い、何時もよりも一段と陽気になった勢いで、大吉の想い人の小宮怜子(池内淳子)と完全に意気投合した。かつてのタキの、怜子に対する陰険な態度が今や嘘のようだ。怜子の側にはもともとタキに対する敵意なんかあったはずもなく、むしろ尊敬すべき仕事仲間と思っていたろうが、タキにとっては酒の勢いも借りて完全な和解をし得た気分だったろうか。
そして酔いから醒めたあとも酔いに乗じた勢いからは醒めなかったのか、青山タキは、岡倉大吉に対して多額の出資をして欲しいと依頼をしてきた岡倉家三女の高橋文子(中田喜子)の旅行代理店のために、その出資を断った大吉に代わり、莫大な出資を引き受けたいとまで申し出た。そう云えばタキも大富豪だったのだ。小宮怜子も財界に名声を轟かせた大物の未亡人で、夫の残した大豪邸に一人で居住し、恐らくは不動産収入等をはじめとする遺産も莫大にあるに相違ない大富豪であるし、料理店「おかくら」の現在の構成員の中で富裕ではないのは料理人の森山壮太(長谷川純[ジャニーズJr.])だけだろう。
だが、そんな壮太でさえも、現今の不況の中でも大繁盛を続ける景気のよい高級料理店に正規に雇用されていて、「旦那様」の大吉にも吾が子のように愛され、もちろん給与は確り得ているはずであるから、年間を通して元旦のほかに休暇もなく、日々早朝から夜まで休みなく働いていて、それなりの給与を受けているとしても散在をする暇もなく、しかも毎日三度の食事も店で得ているとすれば食費も殆ど不要だろうと考えるなら、既に少なくとも一千万円以上の財産を築き得ていることと見込まれる。現今の不況の中、それは貧乏とは云えないだろう。ああ見えて彼も富裕なのかもしれぬと推察される。