仮面ライダーディケイド第二十四話

東映仮面ライダーディケイド」。
第二十四話「見参侍戦隊」。脚本:小林靖子。監督:柴崎貴行。
仮面ライダーディケイド=門矢士(井上正大)と仮面ライダークウガ=小野寺ユウスケ(村井良大)と「夏みかん」こと光夏海(森カンナ)の三人に光写真館主の光栄次郎(石橋蓮司)を加えた一行が訪れた十二番目の世界は、驚くべきことに「侍戦隊シンケンジャーの世界」。
御宝マニアのコソドロの仮面ライダーディエンド=海東大樹(戸谷公人)に云わせれば、そこは「仮面ライダーのいない世界」。換言すれば、通りすがりの仮面ライダーとして他所の幾つもの仮面ライダー世界を旅するほかない門矢士には理解できるはずもない世界、他のどの世界よりも強く門矢士を拒絶するはずの世界。
視聴者にとって興味深いのは、「仮面ライダーのいない世界」としての「侍戦隊シンケンジャーの世界」と、仮面ライダーの世界群との対比が、侍戦隊シンケンジャーと黒子軍団の見え方が普段とは少し違っていたことによってさり気なくも鮮やかに表現されたところだろう。視聴者は彼等シンケンジャーと黒子軍団とを普段はシンケンジャー世界の「ものの見方」(視覚の形式)を通して見ているが、今回は初めて、仮面ライダー世界の「ものの見方」(視覚の形式)を通して見たのだ。
換言すれば、これまでスーパー戦隊の制作者集団の流儀で作り上げられ捉えられてきたものが、今回は初めて、仮面ライダーの制作者集団の流儀で微妙に作り直され捉え直されたということだが、なるほど番組の公式サイトにも、東映における「平成ライダー」と「戦隊」それぞれの制作者集団がそれぞれに時間をかけて培ってきた流儀を「文化伝統」と形容し、今回の「仮面ライダーディケイド」における「侍戦隊シンケンジャーの世界」の制作を通して制作者たち自身がそうした「文化の違い」を発見したことが記されてある。
確かに、これは視聴者にとっても新鮮な視覚体験だった。「殿様」ことシンケンレッド志葉丈瑠(松坂桃李)率いる侍戦隊シンケンジャー五人衆がどのように出現し、どのように名乗り、どのように戦うのか。もちろん普段と概ね同じなのだが、門矢士とユウスケと夏みかんはそれを初めて見るのだ。驚いたに違いないが、吾等視聴者も初めて見たときは驚いたのだ。その驚きが今朝は新たな形で蘇ったかのようだった。関連してさらに興味深かったのは、黒子軍団の急襲から撤退までの一部始終が見られたこと。これは門矢士が黒子見習いとして黒子軍団に入隊させられたからこそと云えるかもしれない。ことに注目すべきは、殿様の率いる戦隊五人衆が外道衆を相手に戦っている間、黒子軍団が周囲を取り囲んで見守っていたところだろう。撤収の際の黒子軍団の手際のよさにも、ユウスケと同じく感動した。
これまでは大概どの世界においても華やかに抜きん出た能力を発揮してきた門矢士も、この世界では少なくとも当面、黒子の見習いに徹するほかない。しかし彼の卓越した能力は隠せない。なにしろ彼は「殿様」の素顔の意外性を早くも「大体わかった」からだ。封建的な主従関係を幼時より身に付けた忠臣のシンケンブルー池波流ノ介(相葉弘樹)が「殿」の素顔を知るまでには時間を要したのは無論のこと、そうした難しい作法を身に付けていないからこそ眼前の人を真直ぐに視るほかないシンケングリーン谷千明(鈴木勝吾)でさえ、丈瑠が意外に「普通」の男子であることを知るまでには時間を要したかと思う。しかるに門矢士は、「殿様」=丈瑠を初めて知ったにもかかわらず彼の本質が「普通」で「かわいい」ことを早くも「大体わかった」らしいのだ。黒子として主君の側近くに仕え、日常空間にまで接近することができるという点では侍衆よりも有利だったとはいえ、流石に大体を把握するのが速いと云わざるを得ない。
門矢士が丈瑠を「かわいい」と感じたのは、丈瑠が、重臣の日下部彦馬(伊吹吾郎)の腰の痛みのことを心配して病院へ行くように幾度も促していたにもかかわらず「殿」のことを心配するこの家老が城館を留守にしようとはしないことから、この老臣に対する己の心配の深さを察してくれない老臣に対して怒り、怒りの余り厳しい態度を取って喧嘩して拗ねてしまったのを目撃したからだった。丈瑠が幼時に両親を亡くして以来この重臣の彦馬殿を、表面上は家老として扱いながらも本当は殆ど本当の親のように慕い続けてきたこと、対する彦馬殿も丈瑠の全てを知っていて、表面上はあくまでも家臣としての姿勢を貫きながらも精神的には親以上の親代わりであることを、吾等視聴者は既に知っている。門矢士も、その気配を察したのだろう。
他方、コソドロのディエンド=海東大樹は、シンケンゴールド=梅盛源太(相馬圭祐)の宝を盗んだ所為で今度は自身の宝を外道衆に盗まれてしまった。これについて門矢士は「傑作だな!泥棒が泥棒されたのか?」と笑い、ユウスケは慌てて「おい、士、悪いよ」とたしなめていたが、門矢士は「ユウスケ、海東を助けてやれ。丁重にな。あとで思いっ切り、恩を高く売れる」と少し意地悪な指示をして、海東の物真似をして見せた。ユウスケは呆れていたが、あれは門矢士の意地悪に呆れていたのではなく、意地悪な言い方でしか優しさを表現できない門矢士の流儀に「相変わらずだな」とか思ってしまったわけなのだろうと推察される。
もっとも、流石の海東大樹も、ディエンドに変身するための武器を全て盗まれてしまって再起不能なまでに落ち込んでいた。普段の不敵な表情も言動も失われ、見ていて辛くなる程ではあった。でも、門矢士に云わせれば、今までの悪事の数々の天罰が下ったのだ!ということになるのかもしれない。
こうして今朝の話の後半には完全に元気をなくした海東も、前半には何時も以上に元気に飛び回っていた。まるで牛若丸か何かのように彼が身軽に飛び回っていた奇妙な岩山のある噴水の広場は、特撮ドラマの撮影場所として時々使用されると思しい筑波研究学園都市の玄関口「つくばセンター」の円形の中庭だろう。海東大樹役の戸谷公人にとっては云わば先輩にあたる三浦春馬が、既に美形の子役として人気を博しながらも、未だ今程には有名ではなかった時代(多分アミューズ移籍前)、数人で路上ダンサーとして活動していた舞台があの広場だったと聞く。
それにしても、予言者の鳴滝(奥田達士)の言動が最近ますます興味深い。彼は毎回、ディケイド=門矢士が旅先で酷い目に遭うだろうことを勝手に予言しては現実に裏切られて、勝手に落ち込んでいるだけだ。そして彼は何でも全てディケイド=門矢士の所為にしてしまう。たとえ真の原因がコソドロの海東大樹にあろうとも、鳴滝には関係ないらしい。