素直になれなくて第五話

フジテレビ系。ドラマ「素直になれなくて」第五話。
美青年リンダ(玉山鉄二)は、自身の勤務する雑誌社「ベストマガジン社」の仕事を何とかして青年ナカジ(瑛太)に回したいと熱望する中、そのための打ち合わせを行うべく喫茶店にナカジを呼んだ。そこでの両名の会話には、解釈されるに値する含蓄が少なくとも二箇所あったと見受ける。
(一)リンダは、ナカジがハル(上野樹里)からの熱烈な求愛になびかないのと同時にドクター(東方神起ジェジュン)に対しても優しさを見せていることを、ナカジの優しさの表れとして賞賛したが、これに対してナカジは、実は予て交際中の「彼女」がいることを初めて明らかにした。
問題は、ナカジのこの告白に接してリンダが、「いない方がおかしいよね、いい年だもんな」と妙な相槌を打ちつつも、どこからどう見ても明らかに動揺していたことだ。以後は何を聞いても語っても上の空だった。
このことは何を物語るか?恐らくはリンダは、ナカジには「いい年して彼女もいない」だろうと思い込んでいたことを物語るだろう。リンダは、ナカジに対する己の片想いが、ことによると、必ずしも成就の見込みがないわけでもないのかもしれないことを、微かに期待していたのではなかったろうか。ハルとドクターそれぞれに対するナカジの曖昧な態度も、リンダの眼には、己のこの期待を裏付ける要素として映り得たろうと推察される。だからこそナカジの「彼女」発言はリンダのこの期待(という名の妄想)の全てを突き崩し、動揺させ、失望させざるを得なかったのだ。
(二)ナカジが交際中の「彼女」山本桐子(井川遥)への愛を語るのを聴いたあとリンダは「そんなに好き?」と訊ね、ナカジが肯いたのを受けて「純粋過ぎるっていうか、傷付かないか、心配だよ」と感想を述べた。この謎めいた感想に対し、ナカジは「どういう意味?」と問うたが、リンダは「あ、いや、そういう意味じゃなくて…」とさらに謎めいた言葉で応じた。一体、リンダの「心配」にはどのような「意味」があるのだろうか。
少なくとも三重の解釈ができようか。先ずは最も単純な意味として(1)、「好き」という思いにおいて「純粋過ぎる」者は、その者に愛を向けながらもその者の愛の対象にはなりそうもない者を傷つけずにはいないということがあるはずだ。桐子へのナカジの純粋な思いは、ナカジに片想いを抱くリンダを傷付けている。
このことと表裏一体をなす意味として(2)、「好き」という思いにおいて「純粋過ぎる」ことはその思いを抱く者を傷付けずにはいないことを、リンダ自身が痛感しているということもあるように思われる。リンダはナカジを愛するが、その愛は成就の見込みもないものであり、大きくなれば大きくなる程にリンダを傷付け、苦しめている。
しかるに(3)、リンダの言における「純粋過ぎる」という語にもっと強く注目するなら、むしろ彼の到底「純粋」ではない現状が浮かび上がってくるかもしれない。リンダはナカジを強く求めているが、その思いを表現することはできないでいる。もちろんナカジの肉体に触れることなんかできそうもない。それなのにリンダは、現に愛していないばかりか将来も愛し得る可能性が万に一つもないはずの淫乱なセクハラ上司、北川悦吏子ならぬマリコ(渡辺えり)のために、身体を捧げなければならないばかりか、逆に自ら進んで、あたかも心から望んでいるかのように、その異性の醜い肉体を求めてみせなければならない状態にあるのだ。ナカジに対するリンダの「純粋過ぎる」思いは、リンダ自身の、現実の、「純粋」ではあり得ない惨めな姿によって完全に裏切られている。これ程にも傷付く状況は、そうはないだろう。