仮面ライダーW第三十九話

東映仮面ライダーW(ダブル)」。
第三十九話「Gの可能性/バッドシネマパラダイス」。
脚本:三条陸。監督:柴崎貴行。
このドラマ世界に存在するガイアメモリという道具は、不正な仕方で流通され、不正に使用されている点において不正な存在と認識される。これを開発した組織の幹部連は開発の目的を「人類の進化」と称しているが、それがどのような進化であるのかは今のところ明らかではない。しかし不正な流通と不正な使用による数々の不可解な事件がこの道具の可能性を探るための実験であるとすれば、「人類の進化」と称される事態も、一部の人々が特別な力を獲得することでこそあれ多数の人々が多数の幸福を得ることではなさそうであるとは予想されようか。
ともあれ、前回までの三十八話を通して多くの人々がそれぞれ入手したガイアメモリを使用して様々な事件を惹き起こしてきたが、今回の第三十九話において明確化したことは、同一のガイアメモリであっても使用者が違えば獲得できる能力の程度も違ってくるということ、そして恐らくは逆もまた然ると云うべく、同一の使用者であっても使用するガイアメモリが違えば獲得できる能力の程度も違ってくるということだろう。しかも、そうしたガイアメモリと使用者との間の適性の程度については事前の予測が難しいらしいのだ。
思えば、左翔太郎(桐山漣)が相棒フィリップ(菅田将暉)の心身との完全な一体化を果たして「エクストリーム」変身体への進化を遂げることができたことにしても、その開発者である謎の女シュラウド(声:幸田直子)にとっては予測できなかった(ゆえに許せない)展開だったのだ。
もっとも、このことは予て散々描かれてきたことではあった。須藤霧彦(君沢ユウキ)は「ナスカ」のガイアメモリとの適性に関して並の人間よりは遥かに秀でていた。並の男であればナスカドーパントに変身するだけでも身体への負担に耐え切れず生命を落とすことにもなるらしいが、須藤霧彦はそれに余裕で耐えることができた。だから園咲冴子(生井亜実)と結婚する資格を得たわけだが、今朝の話を見る限り、どうやら園咲冴子はナスカに関して元夫の園咲霧彦よりも遥かに高い適性を有するのかもしれないと思える。ただしガイアメモリの使用に際して、「ドライバー」と呼ばれる変身ベルトを使用するか否かで効果は異なり、ベルトを使用すれば安全性を確保できる反面、発揮できる能力には制限があるが、ベルトを使用しなければ能力を存分に発揮できる反面、安全ではない。園咲霧彦はベルトを使用していたが、園咲冴子は使用していない。ゆえに単純な比較はできない。
今回の事件の犯人は、映画館「T・ジョイ風都」に勤務する「引込み思案」の地味な男、川相透(川野直輝)。「ジーン」のガイアメモリを所有し、職場で唯一優しくしてくれる虹村あい(谷澤恵里香)の姿に変身してその主演映画を自作の脚本と監督で自作して自身の職場で勝手に上映し、強制的に客に見せていた。
七時間もの長時間にわたり展開も結末もない駄作映画を見せられるのは苦痛であるのは間違いないが、それでも、基本的にはフザケた事件ではあって深刻な気配はなさそうに見える。だからこそ鳴海亜樹子(山本ひかる)も、彼の逮捕によって事件を直ぐに解決するよりは彼の映画制作を手助けすることによって彼を幸福にしてやろうと考えることができたのだろう。
風都警察署超常犯罪捜査課の真倉俊(中川真吾)と同課長の照井竜(木ノ本嶺浩)までもが、犯人の逮捕のためではなく映画制作への参加のために呼び出され、しかも変な格好をさせられて俳優として出演させられていたのは長閑で楽しかったが、しかし同じとき、秘密結社ミュージアム総帥の園咲琉兵衛(寺田農)は、ジーンの可能性を最大限に引き出し得る極めて稀な人材としての川相透に注目していたのだ。何の深刻性もなさそうな悪フザケの笑い話の中にこそ最も恐ろしく深刻な急展開の芽が生えるところに「仮面ライダーW」物語の面白さがある。
その意味において秀逸だったのは、今朝の話の最後の場面。仮面ライダーWに変身した左翔太郎とフィリップ=園咲來人によって打倒されたクレイドール園咲若菜(飛鳥凛)の不甲斐なさを嘲りながら出現した園咲冴子がナスカに変身し、かつての園咲霧彦を遥かに凌ぐ攻撃力で、仮面ライダーW仮面ライダーアクセル照井竜との連合軍をも圧倒していたとき、その手前では、「引込み思案」の川相透から静かに不満を表明されて鳴海亜樹子が変な顔して甲高い悲鳴を上げていた。長閑な喜劇の背景に空前の大激戦。物凄い対比の光景だった。