旅行記五国立西洋美術館カポディモンテ美術館展&湯島聖堂&国立新美術館オルセー美術館展

旅行記五。朝早めに起きて、なお眠り足りないものの、「仮面ライダーW」を見たあと八時半頃、ホテルの食堂で大いに朝食。準備を整えて外出。パンダ橋を渡り、前川國男設計の東京文化会館の前を通り、十時の少し前、ル・コルビュジエ設計による重要文化財世界文化遺産候補の国立西洋美術館本館へ到着。
国立西洋美術館において八月六日(金)まで開催されている特別展「ナポリ・宮廷と美 カポディモンテ美術館展 ルネサンスからバロックまで」を二時間で観照した。迫力ある傑作が多く並んだ中で私的に最も魅力を感じたのは十七世紀イタリア絵画の巨匠アンニーバレ・カラッチの「リナルドとアルミーダ」。特にリナルドの美麗な顔と身体と甘美な表情は同じカラッチの代表作であるファルネーゼ宮殿の天井画に描かれた酒神バッコスや青年裸体像を想起させる。カラッチの描く美青年の顔は極めて端正である中にも、各部分の造形が明確に大きくて丸みを帯びて、愛嬌もあるのが特徴的であると云える。その印象は、現代の日本の著名人で云えば井上正大に近いかもしれない。このリナルドは特に似ていると思う。そして、端正な中にも丸みがあって愛嬌がある造形という特徴は、身体の全体に漲っている。なお、左胸の乳首が目立つ位置にあって目を惹いたことも取り敢えず書くだけ書いておこう。
グイド・レーニの「アタランテとヒッポメネス」は、二人の主人公の裸身に絡みつく布が二人の動作の速さ、激しさを表現し得ているにもかかわらず、二人の身体は、二人の動作が鋭く反対方向へ向かっていることを表しながらも彫刻のように硬く静謐であるところが面白い。
会場を出て図録やクリアファイル等グッズを購入したあと、常設展示も観照。展示されている絵画や彫刻と併せて、展示空間をなしているル・コルビュジエ設計の建築の内部をも観照した。昼二時七分に館を出て、上野駅にある食堂の蕎麦で昼食。
次いで湯島聖堂を二年半振りに拝観しようと思い、上野駅から秋葉原駅へ移動。中央通を横切り、昌平橋の手前を通過して外堀通を進み、二時五十五分、湯島聖堂へ到着。二年半前に来たときには仰高門の中から杏壇門の前までの間が工事中で入れなくなっていたが、工事は無事完了したようで、初めて仰高門から孔子銅像の前を通り入徳門をくぐり石段を登って杏壇まで達することができた。明治初年に博覧会の会場にもなった大成殿は威厳のある建築だが、杏壇門の柱の間に見える姿が特に麗しい。
三時四十分頃に湯島聖堂をあとにして、暫し秋葉原の賑わいを眺めたあと、秋葉原駅から有楽町駅、日比谷駅を経て乃木坂駅国立新美術館内の出口に着いたのは四時四十分頃。特別展「オルセー美術館展2010『ポスト印象派』モネ、セザンヌゴッホゴーギャン、ルソー、傑作絵画115点、空前絶後」を観照。本日は夜八時までの夜間開館の日であるから観照のための時間は充分にあったのだが、如何せん、会場内の混雑が凄まじく、存分に作品を観照できるような状況にはなかった。なにしろ周囲の人々を避けるのに必死で、それでも前方不注意の人々に打つかられてしまうのは避け難く、会場内を歩き回るだけでも疲れ果てる程だった。でも一応、会場内を二回以上は往復したので一通り全作品を観ることを得たかと思う。
フランス近代絵画の名作ばかりが並んでいたので、どれもこれも全て素晴らしかったが、私的に特に興味深く見たのは、ジョルジュ・スーラの「サーカス(エスキース)」、フィンセント・ファン・ホッホ(ゴッホ)の「アルルのゴッホの寝室」「星降る夜」、モーリス・ドニの「木々の中の行列(緑の木立)」、ギュスターヴ・モローの「オルフェウス」、ピエール・ピュヴィ・ド・シャヴァンヌの「貧しき漁夫」、エドゥアール・ヴュイヤールの「ベッドにて」「眠り」、同じくヴュイヤールの「公園」連作とか。兎も角、大混雑の展覧会場の中で少しでも充実感を得るには、八時間も十時間も何日間も費やして粘り強く見続けてゆくか、さもなくば自分なりに見たい絵を幾つか見付け出してそれ等に集中して存分に観照しておくか、何れかしかないだろう。
約一時間四十分間にわたり大混雑の中を歩き回って観照して、なおも閉館時間まで一時間以上の余裕はあったが、非常に疲れていたので図録を購入したのち夕方六時四十八分に会場を脱出した。黒川紀章設計による国立新美術館の建築を内外から暫く観照。七時頃に館を出て乃木坂駅から日比谷駅、有楽町駅を経て上野駅へ戻り、夕食後、ホテルへ帰った。
国立西洋美術館の「カポディメンテ美術館展」の売店で購入した菓子「ペルバンビニーナ」を食べて寛いでいる。菓子の箱に同封されていた説明書によると、イタリアのピエモンテ地方の伝統菓子「バーチ・ディ・ダーマ」に基づいてそれを「楽しくアレンジ」したものであるとか。販売元はシーキューブ社。