SPEC第八話

TBS系。金曜ドラマ「SPEC(スペック) 警視庁公安部公安第五課未詳事件特別対策係事件簿」。第八話。
色々なことが明らかになった話だったが、それに伴ってさらに謎が深まった感もある。一十一[ニノマエジュウイチ](神木隆之介)に着目して、少しだけ整理しておこう。
(1)一十一は、「SPEC」所有者を保護すると称する集団の配下にあって、その指令に従って行動している。(2)その集団は、警視庁公安部公安零課を敵と視ている。(3)しかるに一十一はその集団に従って恐ろしい任務を遂行することを、好んで引き受けているわけではない。(4)彼は母を守るためには嫌なことをも引き受けざるを得ないと考えていると思しい。(5)母を安心させるための非常手段として、彼は、人の記憶を改竄できる「SPEC」の所有者に依頼して、母の記憶から不都合なことを消去していたようだ。
一十一よりもかなり長身のその「SPEC」所有者の正体は、当麻紗綾(戸田恵梨香)に付きまとう学生、地居聖(城田優)であるのかもしれない。
さても、一十一に関して極めて示唆的であるのは、(6)当麻紗綾が一十一を「連続爆弾魔」と見て、犯罪者として逮捕すべく追っているのに対し、一十一は、当麻紗綾こそ一十一の家族を殺害した悪人だと見ているということだ。(7)確かに一十一は家族を失っているようで、唯一生き残った家族である母を何としても守りたいと語ったが、他方、当麻紗綾も家族を失っていると見受ける。
両名はどことなく似た境遇にあるのかもしれない。これに関連して、両名の内の何れか、或いは両名に対して、記憶の改竄が行われた可能性がありはしないかとも疑うことができようか。
一十一は強力な「SPEC」所有者だが、これまでに登場した「SPEC」所有者の多くにとっては殆ど敵のようなものだった。そして彼等の中には、一十一を味方と見る者もいれば敵と知る者もいた。ゆえに一十一を使役する謎の集団は必ずしも「SPEC」所有者の味方ではなく、一十一は不本意にも敵のために使役されているのかもしれぬと考えることができるだろう。
警視庁公安部零課の津田助広(椎名桔平)が潜んでいる庁舎へ潜入するときの一十一の楽しそうな動作が余りにも印象深かったが、この、どこか幼児風にも乙女風にも見えた彼の明るく幸福な様子は、巨大な闇、救いのない閉塞感をも呑み込んだものだったのだと見なければならない。