橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり第十部第十話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田壽賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
最終部=第十部第十話。
小島眞(えなりかずき)、大井貴子(清水由紀)、そして森山壮太(長谷川純[ジャニーズJr.])の関係はどのようになりゆくのか。それを考えるためには先ずは現状を把握しておく必要がある。
先ずは小島眞について。(1)彼は内心では大井貴子への想いを断ち切ることなんかできていない。できれば再び交際し、婚約をやり直したいとさえ考えているだろう。
(2)しかるに、肝心の大井貴子の側が小島眞とは再び交際するつもりはなく二度と会うつもりもなかったと繰り返し強調している。そうした中で、それでもなお、困窮している大井貴子のために救いの手を差し伸べるためには、そしてその手を受け止めてもらうためには、敢えて彼の側も大井貴子の頑固な言い分に同調して、もはや再び交際したいとの意はなく単に救いの手を差し伸べたいだけのことであると云い張る他なかった。もはや婚約者ではないのみならず恋人でさえなく、単なる友人として付き合うつもりであると約束するしかなかったのだ。
(3)幸か不幸か、少し前に、念願の公認会計士の国家資格の試験に合格することを得たばかりの彼は、予て働いてきた監査法人における実務経験を今後ますます本格化させなければならなくなった。もはや私事を理由に休暇を取ったり残業を拒絶したり等できるような状況ではなくなってきたのだ。大井貴子のことなんか忘れてしまう位に忙しく働かなければならない。ゆえに大井貴子への支援に関することの一切を、引き受けてくれることになった母の実家である高級料理店「おかくら」の人々に委ねざるを得なくなった。
それだけではない。(4)彼は未だ知らないが、父の小島勇(角野卓造)は小島五月(泉ピン子)との会話の中で、もはや社長令娘ではないのみか、病で寝たきりの状態にある父の介護をしながら働いて生計を立て、家事をも一人で取り仕切らなければならなくなった大井貴子を、小島眞の結婚相手としては相応しくなくなったと思うことを明かしていた。小島眞が強がって敢えて大井貴子との交際の再開を否定し続けていたとき、実は彼の父が既に二人の交際に強く反対し始めていたのだ。
次に、森山壮太の事情を見ておこう。(1)彼は少なくとも現時点では、大井貴子と交際したいとは考えてもいないが、もともと好意的ではある。(2)かつて大井貴子も仕事仲間としての彼に好意的だった。その意は歳月を経た今でも特に変わってはいないだろう。
(3)彼には、かつて寝たきりの父の介護をしながら「おかくら」で働いた経験があり、似た境遇に置かれてしまった大井貴子のために、他の誰よりも濃やかに充実した助言と助力を提供できる立場にある。彼自身がそのように自負しているし、「おかくら」の皆がそのように認め、頼もしく思っている。もちろん大井貴子にとっても頼もしいことだろう。(4)それに引きかえ、小島眞は監査法人の仕事が忙しいから仕方ないとはいえ大井貴子のために大して力になろうともせず、意外に頼りにならない…と岡倉大吉(宇津井健)をはじめ「おかくら」の人々は感じたようだ。この状況は森山壮太の頼もしさをますます輝かせることだろう。
(5)彼は小島眞の親友であり、小島眞の代理人として、大井貴子を助けるために尽力したい考えであることを表明した。まさか小島眞と大井貴子との交際の再会の可能性がなくなりつつあろうとは現時点では思いも寄らないでいるだろう。だが、たとえ小島眞の代理人という立場がなかったとしても、彼は決して大井貴子を助けなくなるわけではないだろう。
(6)岡倉大吉にしても青山タキ(野村昭子)にしても、大井貴子のことを大切に思っているから、当人が望まない交際を無理強いするはずはなく、当人が望んだ交際を邪魔することも、余程の事情がない限り、ないだろうと推測されよう。もちろん森山壮太に関しても同じことが云える。岡倉大吉も青山タキも彼のことを大切に思っているのは明白であるから、当人が望まない交際を無理強いするはずはなく、当人が望んだ交際を邪魔することも余程の事情がない限りはないだろうと推測できる。
以上を総合するなら、小島眞と大井貴子との間に交際が再開する可能性は殆どなく、大井貴子と森山壮太との交際を妨げる要因は殆どないと考えることができるだろう。だが、物語は必ずしも予想通りには進まない。