デカワンコ第九話

日本テレビ系。土曜ドラマデカワンコ」。第九話。
今宵の話の主人公は、警察犬ミッハイルことミハイル・フォン・アルト・オッペンバウア・ゾーン(シェーンことフィトス・オブ・セイント・フジ・ジュニア)と、この名犬を警察官人生最後の「相棒」と決めている刑事部鑑識課警察犬係巡査部長の田村和正(田口トモロヲ)。
一番の見所だったのはもちろん、ミッハイルが犯人を逮捕したところだろう。逃げ足の速い犯人を追走しながらも警視庁刑事部捜査一課の第八強行犯捜査の殺人捜査第十三係の屈強の人々でさえも追い付けないでいた中、転倒した田村和正巡査部長をミッハイルが心配したとき、田村和正巡査部長は顔の表情だけでミッハイルに犯人の後を追うように指示し、ミッハイルはその意を受けて疾走して犯人に追い付き、腕に噛み付いて倒し、漸く追い付いたコマこと小松原勇気(吹越満)等に逮捕させた。
味わい深かったのは、最初、犯人の匂いを追跡したとき、ミッハイルは証拠品に残っていた強い匂いよりもむしろ微かにしか残っていなかった匂いの方に注意して、正確にも、それを犯人の匂いと見定めて行動していたことだ。このところミッハイルにも比肩し得る嗅覚の力によって目覚ましい手柄を立て続けていて、少々調子に乗っていたのかもしれない新人刑事のワンコこと花森一子(多部未華子)が、迂闊にも漫然と、強い匂いの方に気をとられ、誤認逮捕をしてしまったというのに。ミッハイルは複数の匂いを注意深く嗅ぎ分けて微かな匂いの不審なことに気付いていた。
実際、靴というのは一般的には特定の個人が専ら使用し続けるものであるはずで、そこに別の個人の使用した気配が、たとえ微かであっても生々しく残っていたとすれば、そのことは犯行時間に近い時間にその靴を使用した何者かがいたということであり得る。
人間の警察をも凌ぐかもしれない見事な推理だが、田村和正巡査部長によると、これは警察犬の普通の行動であるらしい。実に素晴らしい。しかるに、こんなにも優れた知性を具えた警察犬も、警察組織の中では単なる機材でしかないらしいのだ。機材だから、壊れたら廃棄される。警察犬も、警察犬としての役割を果たせなくなれば引退しなければならない。だから田村和正巡査部長は、ミッハイルが警察犬を辞めさせられるときには一緒に退官する意を固めていた。退官した(=廃棄処分にされた)ミッハイルを貰い受けて、一緒に旅行に出たいと考えていた。
警察犬をこんなにも大々的に取り上げ、主役にまでしてしまう刑事ドラマというのは滅多にないだろうが、このドラマの妙味は犬と人間とをかなり近付け、さらには似せて描いているところにあるかもしれない。今宵の話に至っては、人間の姿に化したミッハイルまでも登場した。純白のフロックコートを着た若い(ドイツ人の?)貴公子だった。だが、そうした中で敢えて「警察犬は鑑識機材である」という冷酷な事実をも突き付けてくるところにも、やはりこのドラマならではの妙味があるかもしれない。
人間の出る幕は普段よりは乏しかったが、存在感を改めて示したのは東京拘置所にいる元刑事、ガラこと五十嵐太一(佐野史郎)。
嗅覚を過信して誤認逮捕をしてしまい、落ち込んでいたワンコに、ガラはもう一度、あの「現場百回」の鉄則を説いて、刑事の精神を想い出させた。「駄目なのは鼻かな?私が云ったことを忘れてしまったようだね。考えるな!調べろ!鼻だけじゃない。目、耳、手、脚、口、全部使って調べて調べて調べ尽くせ!考えるのはそのあとだ」「現場百回!なあ?ワンコ」。陽気で能天気であることは無論このドラマの大きな魅力だが、そんなドラマがこの場面で一気に引き締まるのも不可欠な魅力だ。
キリこと桐島竜太(手越祐也)は地味ながらも刑事として地道に着実に働いていた。デークと呼ばれ続けているデューク・タナカ(水上剣星)は自身の名がデークなのかデュークなのか段々判らなくなってきている模様。