デカワンコ第十話=最終回

日本テレビ系。土曜ドラマデカワンコ」。第十話=最終回。
今までの話と同じように楽しい話だった。特別に大がかりな事件を発生させるわけではなく、困難を重ねて盛り上げるわけでもなく、あくまでも普段通り、陽気に能天気に淡々と結ばれた。最終話を異質なものにすることなく普段の本来の味わいを最後まで貫いたところがこのドラマの性格に合っていた。
とはいえ最終話ならではの設定や場面もあった。
先ずは警視庁刑事部捜査一課第八強行犯捜査殺人捜査第十三係の新人刑事、ワンコこと花森一子(多部未華子)が刑事として今後やってゆくことに少しだけ自信をなくしたところから話が始まった。次いで、第十三係の慰安旅行として一泊二日の温泉旅行が挙行された。その二日目の朝、ワンコは職場の皆の会話を足湯で偶々盗み聞いて誤解して、皆に嫌われていたのかもしれないと勘違いをして、ますます落ち込んだ。そうして仲間を誰も信頼できなくなってしまっていたところで、偶々そこへ出没した指名手配犯に拉致されてしまった。しかもその犯人は二年前にシゲこと重村完一(沢村一樹)が取り逃がした人物だったのだ。
今までのワンコは警視庁の管轄区域内で仲間たちと一緒に事件に取り組んできたから、以上のような今回の事態は、普段とは違った場所で起きた普段とは違った事態であると云える。
しかし最も普段とは違っていたのは、係長の門馬次郎(升毅)率いる第十三係の皆が匂いを手がかりにしてワンコを追跡したことだろう。普段であればワンコが警察犬に比肩し得る嗅覚で微かな匂いを発見して犯人を追跡するが、今回はそれが逆転。監禁されているワンコと電話で話をしながら、ワンコが犯人の車中で感じた車外の匂いは何だったかを聴取して、その匂いの元を探索してワンコの居場所を突き止めたのだ。
もっとも、その捜索の途上でキリこと桐島竜太(手越祐也)が気付いたように、携帯電話が確り通じているのだからGPS機能でワンコの居場所を突き止める方が速いし、刑事らしい手法ではあるのだが、ヤナこと柳誠士郎(大倉孝二)が云ったように、折角ワンコの能力を活用できる場面であるのだから敢えてワンコの能力をGPS代わりに使用しておこう!というのが、いかにもこのドラマらしい「緩さ」。
コマこと小松原勇気(吹越満)をはじめ刑事たちの機敏な身体能力は発揮されたし、犯人の逮捕にあたっては「落としのシゲさん」と形容されるシゲの説得力が発揮された。チャンコこと和田純(石塚英彦)は愛犬家としての今の心境を語り、デークことデューク・タナカ(水上剣星)は温泉旅館における宴会の席上、「瞼の母」(第六話)に続いて今回は「国定忠治」を披露した。
キリは温泉旅館における宴会のとき酒に酔った勢いでワンコに少し絡んだ。ワンコがシゲや係長やチャンコに色々語りかけて話を聴いていたのを見て彼は「俺にもなんか聴けよ」と声をかけた。何か聴いて欲しいということは、何か興味を持っていて欲しいということだ。云わば一寸した愛の告白でもあるのだが、これにワンコは「別に」としか応えなかった。完全な一方通行、片想い。このドラマには実は恋愛ドラマの要素なんかなかったのだ。
面白かったのは、普段は警察犬ミッハイルことミハイル・フォン・アルト・オッペンバウア・ゾーン(シェーンことフィトス・オブ・セイント・フジ・ジュニア)の「相棒」であり、今回は人間ドックならぬ「ドッグドック」に伴う休暇を利用して第十三係の宴会に何時しか合流してしまった刑事部鑑識課警察犬係巡査部長の田村和正(田口トモロヲ)が、このワンコとキリとの会話を聴いて突然、酔った勢いで怒り出したこと。キリの恋を応援したかったのではない。ワンコの三年先輩にあたるキリへの、ワンコの失礼な態度に怒ったのだ。普段は無口な田村和正巡査部長には余りにも生真面目な性格から来る少々面倒な側面があることは先週の第九話でも少し窺えたが、その気難しい本性が酒の勢いで発揮されたようだ。そんな彼もデークの「国定忠治」で機嫌を直した。
この宴会における見所の一つとしてキリの上半身裸があったことも忘れてはならない。このドラマで色気を担うのは「紅一点」のワンコではなく、むしろキリであるのだろう。
ガラこと五十嵐太一(佐野史郎)は東京拘置所にいて罪を償おうとしていて、ワンコが逮捕してくれたことに改めて感謝していた。
他方、(第八話における)警視庁組織犯罪対策部の不祥事の責任を取って警視総監の官職を辞任した松田洋雄(伊東四朗)は、一民間人として、探偵事務所「ホームズ・エージェンシー」を開業した。そして「ホームズ・エージェンシー」のチラシを東京拘置所のガラに手渡していた。ガラは感激して泣いていた。ガラは罪を償ったあとは探偵として新たな人生を始めるようだ。そこには何時か、野田涼介や出水京子や金田一少年喰いタンも参加するのかもしれない。