渡る世間は鬼ばかり第十部第二十三話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田壽賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
最終部=第十部第二十三話。
料理店「おかくら」主人の岡倉大吉(宇津井健)の孫、本間日向子(大谷玲凪)はインターネット上で知り合った「トモ君」こと乃木智(菊池風磨[ジャニーズJr.])と一緒に海辺の公園へ遊びに行った。手作りの弁当を携えて。その弁当を拵えるに際しては「おかくら」の厨房で料理人の森山壮太(長谷川純[ジャニーズJr.])から手ほどきを受けた。
本間日向子は乃木智と一緒に海辺の公園へ行くことを「デート」と表現していて、乃木智を恋人、或いは少なくとも特別に親密な友として認識しているのは明白だが、同時に、料理人になりたいという思いを語る際に憧れの人として挙げるのは常に、祖父の岡倉大吉ではなく森山壮太であるというところも注意に値するかもしれない。本間日向子にとって、乃木智は最も真剣な人生相談、進路相談の相手でもあるが、進路の理想、人生の目標を教えてくれたのは森山壮太であるのだ。
森山壮太は小島眞(えなりかずき)を、親友であると同時に、否それ以上に恩人であると感じているが、他方、小島眞は森山壮太を、親友でありながら同時に恋敵でもあるかもしれないと感じている。小島眞は今、上司の妹である長谷部まひる(西原亜希)と交際しているかのように偽装し演技せざるを得ない事態に巻き込まれているが、この奇妙な事態は、元恋人の大井貴子(清水由紀)に対する小島眞の未練を一層かき立てているのではないだろうか。上司の長谷部力矢(丹羽貞仁)から、本当は恋人がいるのではないのか?いるのであるなら無理するな!と心配されつつ、仕事の延長として長谷部まひるの恋人を演じ続けることが逆に、本当は別に恋人がいるのだ!という思いを、否、思い込みを強くしてしまっているのではないだろうか。
問題は、大井貴子の感情が今なお正確には読み切れないことにある。岡倉大吉をはじめとする「おかくら」や岡倉家の人々が大井貴子を小島眞の将来の結婚相手として語るのを聴く度に大井貴子が浮かべる暗い表情を見るなら、大井貴子が小島眞をもはや恋人とも結婚相手とも認識してはいないのは明白だと思われるし、むしろ小島眞に対しては時々嫌悪感さえも隠さないように見受ける場面さえもある。それなのに、小島眞に対する思いは変わったわけではないと語ってもいる。本心は何れにあるのか。
小島眞は森山壮太を密かに恋敵と認識しているが、大井貴子が森山壮太に向ける尊敬のまなざしには恋の感情も含有されているのかどうか。
一つ参照できそうなのは、本間日向子が恋心や進路の志望を率直に表明するのを見て大井貴子が羨ましがっていたことだ。大井貴子が本間日向子とは反対に、恋心や願望を隠して生活していることを物語っているだろう。