渡る世間は鬼ばかり第十部第二十四話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田壽賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
最終部=第十部第二十四話。
昨年末から続いてきた懸案の問題群が一挙に解決された。そこにおける橋田寿賀子の手際のよさには久し振りに感心した。
かねて小島眞(えなりかずき)が再び婚約を結び得ると勝手に思い込んでいた相手である大井貴子(清水由紀)が、ついに、小島眞との結婚どころか交際さえも今や全く望んではいないことを正式に表明したのだ。しかもこの表明は、大井貴子を再び不幸な境遇に引き戻すことにはならなかった。なぜなら岡倉大吉(宇津井健)をはじめとする高級料理店「おかくら」の人々は皆、大井貴子とその父の大井道隆(武岡淳一)を、小島眞とのこれまでの関係を抜きにしても大切な人たちであると思うようになっていたからだ。
これは意外なことではない。岡倉大吉も青山タキ(野村昭子)も本間長子(藤田朋子)も、そして森山壮太(長谷川純[ジャニーズJr.])も、大井貴子を大切な、しかも有能な仕事仲間として認めているのが明白だった。これについては既に本年一月六日放送の第十一話に関する感想を記した際に論じたから繰り返さないが、ともかくも、大井貴子と料理店「おかくら」との間の信頼関係には、小島眞を介在させる必要性は必ずしもないということを見落としてはならない。
かつて小島眞を秘書として信頼していた大井道隆は、今なお小島眞には感謝の念を抱き続けているにしても、今はそれ以上に、無償の献身を続ける森山壮太を信頼し、愛しているようであることも予て描かれてきた。今宵の話で明らかにされたのは、森山壮太もまた大井道隆への献身を続け、心身ともに密に接し続けてきた中で、大井道隆という人物を尊敬し愛するようになっていたということだった。
周囲の身近な人々から信頼され、必要にされ、愛され、大切にされる森山壮太、大井貴子、大井道隆。
彼等三人とのこの上なく鋭い対比において描かれたのが小島眞だった…と云うと、余りにも冷酷だろうか。だが、小島眞は常に、東京大学とか公認会計士とか、そうした「社会的な地位」によって法外に高く評価されてきた反面、それでしか評価されないできた。気の毒だが、その原因は彼自身にある。彼は東京大学でなければ大学ではないとまで断言して憚らないが、大学で何を学びたいのかについては何の構想も志望もなかった。「社会的な地位」でしか物事を考えない小島眞の性格は、大井貴子との関係において最も卑しい形で露呈した。彼は「金が欲しい」と云った。金さえあれば大井貴子に楽をさせ、大井道隆の介護も楽にできて、そうすることによって大井貴子からの愛を取り戻し、繋ぎ止めることもできたはずだと信じていた。何の疑いも抱かないでいた。
彼は、己の欠点は「金」だけだと思い込んでいた。己に何か欠点があるとすれば、それは一見かなり万全にも見える己の「社会的な地位」も実は完璧ではなく、ことに経済力の面には多大の欠落がある点にあるのだとでも思い込んでいたのだ。
だから彼は、大井貴子が己を嫌いになる恐れなんか万に一つもないと勝手に思い込んでいた。だが、このような傲慢な、勝手な、まるでストーカーのような考え方こそ、気持ち悪がられ嫌われる最大の原因に他ならない。