渡る世間は鬼ばかり第十部第二十五話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田壽賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
最終部=第十部第二十五話。
今宵は私的に疲れているので感想文も手短に。
長谷部力矢(丹羽貞仁)は、職場における部下の小島眞(えなりかずき)を、妹の長谷部まひる(西原亜希)の本当の恋人に、否、それどころか結婚相手にしたいと考えている。見ようによってはむしろ彼自身が小島眞との親密な交際を望んでいるようにさえ見えてくるが、多分そのような意はなく、あくまでも妹の結婚相手として小島眞を狙っているだけだろう。
問題は長谷部まひるの本音だ。祖母の長谷部マキ(淡島千景)が盛んに持ち込んでくる縁談の数々を全て拒否するための口実にするため、換言すれば長谷部マキを騙すために小島眞との交際を偽装してはいるが、実のところ、小島眞と本当に交際し結婚してもよいとも思っているのか、それとも小島眞との交際なんか真平御免であると思っているのか。小島眞は自分にとっては勿体ない男で、交際なんか恐れ多い…という大袈裟な世辞ばかりを連発されても、本心は見えてこない。
長谷部まひるのこの曖昧な態度がさらに惹起する問題は、小島眞がこの偽装の恋人という惨めな役割に甘んじる中でもなお自尊心を維持するためにますます大井貴子(清水由紀)に未練を抱くのかもしれないことにある。
他方、野田弥生(長山藍子)の家では、他人同士で肩を寄せ合って共に生きる風変わりな「家族」の結束が改めて確認される場面があったが、それを見ていて不吉な予感を抱いた視聴者は少なくなかったろう。
なにしろ機嫌よく酒を飲んでいた野田良(前田吟)の身体を、妻の野田弥生が心配したのだ。この大所帯の幸福な生活を支えているのは野田良一人の働きであり稼ぎであるのだから、くれぐれも身体を大切にして欲しい…と心配したのだ。事実その通りではある。だが、劇中のあらゆる事実を全て台詞で説明し尽くすのみならず今後のあらゆる可能性をも示唆しておくのがこのドラマの流儀であると仮定すれば、この台詞は野田家の現在の幸福が瞬時に反転する恐れを予告しているかもしれないと感じさせるからだ。