仮面ライダーオーズ第三十一話

東映仮面ライダーオーズ/OOO」。
第三十一話「恩返しとたくらみと紫のメダル」。
昆虫の系統のグリードであるウヴァ(山田悠介)が再び姿を現した。
二ヶ月間以上も潜伏していたが、その間はセルメダルを収集する活動に専念していたらしい。しかもアンク(三浦涼介)やオーズ=火野映司(渡部秀)やバース=伊達明(岩永洋昭)やカザリ(橋本汰斗)に見つからないように、かなり密かに、巧妙に。
それは実によく練られた作戦だった。先ずは屑ヤミーを何十体も作り出し、「ブロンズ金融」と称する闇金融会社の社長と従業員の全員に憑依させた。会社を乗っ取り、事実上の所有物と化したようなものだろう。屑ヤミー集団と化した闇金融の集団はどんどん金を貸し出しては回収して高利を得て儲け、さらに貸し付けてさらに儲ける循環活動を展開した。収入の一部を事実上の社主であるウヴァにも上納していたと思しいが、もちろんウヴァの目的は人間界の金ではない。金を稼ぎたいという欲望を持つ連中に憑依して日々働いていた屑ヤミー集団は、日々その欲望を満たし続けては、毎晩十二時に各一枚のセルメダルを産出していた。屑メダルではない完全体の、純正のセルメダルを。ウヴァの目的はそれだ。ブロンズ金融の社長は毎晩十二時に自身と社員の産出したセルメダル数十枚を全て回収し、運び屋の人間に渡して、社主のウヴァ宛に送り届けていた。ウヴァは自らは何もしないで、只管その到着を待つのみだった。そして届けられたセルメダルを受け取ったウヴァは、運び屋の人間に、報酬として毎日三万円程度の現金を与えていた。無論この現金もブロンズ金融の利益から出たものであると考えるほかないから、同社の利益の現金の一部がウヴァにも上納されていたろうと考える理由がそこにある。運び屋として人間を雇うことの利点は、大量のセルメダルを日々移動させていたにもかかわらず、アンクや伊達明やカザリにその動きを察知されないでいた点から明らかだ。この巧妙な作戦を通して、ウヴァは大量のセルメダルを生産し蓄えることに成功した。
実によく練られた悪巧みではあるが、スケールの小ささも並大抵ではない。仮面ライダーに敵対する怪人の行動としては、多分、仮面ライダー史上屈指の「セコイ」悪事ではないだろうか。一般論として見ても、この悪事は(1)非合法な高利貸の会社の経営である点、(2)しかも会社自体が非合法である上にそれをさらに不正な仕方で乗っ取ったに相違ない点等を除けば一応は平凡な経済活動ではあって、こんな平凡な活動を通して地味に着実にセルメダルを蓄積していたウヴァの真面目さ加減には一寸泣かせるものさえある。この作戦についてアンクは「チマチマ稼ぐなんて、ウヴァにしちゃ考えたな」と評した。「チマチマ」という形容がウヴァを一段と涙ぐましく見せる。
ウヴァがこんな地道な活動を考え付いたのは、今は亡きグリード仲間たち、メズールとガメルの力を己の内に取り込まないで済ませたいからだった。「メズール、ガメル、おまえたちを取り込まなくても、俺は俺で力を付ける。このセルメダルで」。メズールやガメルの力を取り込んで「進化」を遂げたカザリとは正反対の道をゆく決意だった。
ウヴァの不幸は、運び屋として雇っていた坂田浩介(坂東巳之助)が多国籍料理店クスクシエに偶々接点を持ち得て、面倒な奴等を引き込み得るような人物だったことにある。
折角の作戦はオーズ=火野映司やアンク等の介入によって呆気なく破綻したが、面倒な奴等を引き込んで作戦を破綻に追い込んだ運び屋の坂田浩介の、金を稼いで困っている人に与えたいという欲望に目を着けたウヴァは、彼にセルメダルを投入し、黒アゲハ型ヤミーを作り出して「最後に一稼ぎ」をさせることにした。もちろんオーズやバース=伊達明がそれに立ちはだかったが、ウヴァは「二対一は卑怯だろう?」と云ってオーズとバースを撃破し、黒アゲハ型ヤミーを助けた。まるで正義の味方みたいな台詞。
ここでの映像表現にも注目しよう。オーズとバースが二人がかりで黒アゲハ型ヤミーを攻撃していたとき、その様子を遠くから捉えていたカメラが急速にそこへ近付き、いよいよ接近するかと思われた瞬間、カメラの手前の方角からウヴァが躍り出て、オーズとバースを攻撃し始めたのだ。ここにおいて視聴者の視点はウヴァの視点に殆ど同一化してしまう。だからウヴァの方が悪の側であることも忘れて(?)「二対一は卑怯だろう?」という言に深く肯いてしまいかねない程。
さらにウヴァは、「セルメダルもそれなりに増やせばコアメダルに匹敵する」と断言したが、これは要するにウヴァがグリードにおけるバースのような存在であろうとしたということだろう。
後藤慎太郎(君嶋麻耶)も鴻上財団会長の鴻上光生(宇梶剛士)の秘書補佐として秘密を探り、何らかの異変があったらしいことを察知しては密かに伊達明に報告し、火野映司とアンクにも伝えた上、さらに秘密を探るべく伊達明とともに行動し、伊達明の相棒として、或いは云わば伊達明の秘書のようにして活躍していた。黒アゲハ型ヤミーが撒いた大量の一万円札に群がった街の群衆への一喝と避難勧告も、なかなか様になって格好よかった。
だが、何といっても今朝の話では、ウヴァの地道な企業経営と、まるで正義の味方みたいな言動が余りにも面白かった。謎の、紫のコアメダルが出現してオーズ=火野映司に憑りついた瞬間、押し出されたアンクの赤のコアメダルを一枚だけ奪い取ったウヴァが、奪われた側の宿敵アンクに「ところで、アンク、今オーズに入っていったメダルは何だ?」と普通に親しげに語りかけていたのも面白かった。
ところで、テレビ朝日の「仮面ライダーオーズ」公式サイトには、ウヴァについて「優男風だが、性格は攻撃的。」と説明してある。劇中のウヴァを見る限り、これは何かの間違いではないかと思われるかもしれない。多分この説明文を書いた人は、普段の山田悠介の、「Qさま!!」に出演するときの彼のような、穏やかで行儀よさそうで爽やかな様子を見て「優男風」と形容してしまったのだろうが、実際に彼がウヴァの扮装をしてみると、まるで別人のような強面に化けてしまったわけなのだろう。
(以上、昼に書いた感想文の一部を修正して夕方に書いた改訂版。改訂前には、ウヴァが屑ヤミー集団に会社を設立させたのだろうと考えていたが、むしろ既存の会社を屑ヤミーに乗っ取らせたと考える方が合理的であると考えて以上のように改訂した。)