仮面ライダーオーズ第三十二話

東映仮面ライダーオーズ/OOO」。
第三十二話「新グリードと空白と無敵のコンボ」。
火野映司(渡部秀)とドクター真木清人神尾佑)との間には殆ど何の共通点もないかのように見えるが、意外にも、精神に「無」のようなものを抱えている点で似ていると云えるのかもしれない。
伊達明(岩永洋昭)が解き明かしたところによれば、政治家一族に生まれた火野映司は少年時代には熱く正義を志して世界を舞台に活動していたが、実はそれは彼の知らぬ間に政治家である父や兄の政治活動に利用されていた。戦地で一人の少女を救えなかったという彼の過去の話にしても、そのときの彼自身は己の危険をも顧みず一つの村を救いたいと志していたが、実際には、父や兄の政治力と財力によって彼の生命の安全だけは保障されていて、村が犠牲になっただけだったにもかかわらず、彼の行動は、現実の結果とは無関係に、彼の知らぬ間に英雄的な美談に仕立てられ、祭り上げられていた。最も辛い結果に直面したのと同時にそのような裏の事実をも知るに至った彼は、以後、己の眼と手の届く範囲の人助けだけを志すことにした。欲望の渦巻く社会で正義のために熱く生きていた彼が、欲望にも正義にも冷ややかな視点を持つようになった。現在見るような無欲恬淡の冷生涯の火野映司青年が誕生したのだ。
それは云わば、あらゆる虚飾を捨て去った結果としての「無」だ。これに対してドクター真木清人に「無」があるとするなら、それは全てが美しく「終わり」を迎えたのちに生ずるはずであり、「終わり」を見るために彼は行動し、闘っているのであるから、それは未完の計画の彼方にある。目的としての「無」であると云える。境地ではなく理想だ。やはり火野映司とドクター真木清人は正反対の位置にある。しかし到達した境地であれ到達すべき理想であれ、精神の核にあるものが欠如、空白、無の類である一点においては、両名は似ていると云えるのかもしれないのだ。
だから火野映司に紫のコアメダルは引き寄せられ、他方、ドクター真木清人は紫のコアメダルを摂取しても今のところ異常を来していないのだろう。
もっとも、開封された直後の紫のコアメダルが近くのドクター真木清人よりも遠くの火野映司を好んで選んだのは、火野映司が丁度そのときコアメダルの王者としての仮面ライダーオーズに変身していたからである以上に、彼が一種の無の境地にあるからでもあるだろう。ドクター真木清人の無は所詮は理想であり目標であり、思想、観念でしかない。
ところで、後藤慎太郎(君嶋麻耶)は今回も伊達明の「相棒」としてその戦闘を助け、そして何よりも人命救助、逃げ惑う群衆のための避難路の確保や指示に尽力した。だが、紫のグリード=ドクター真木清人のヤミーの容赦ない攻撃は多くの人々の姿を消去して無にした。その恐ろしい光景を後藤慎太郎は目撃して胸を痛めた。このとき多分、「世界を守りたい」という彼の予て抱いてきた思いは、もっと明確に、眼前の人々を逃れさせ、庇いたいという思いへ具体化されたのではなかったろうか。火野映司の影響ではなく、自身の行為を通してそう思ったはずだ。そうして後藤慎太郎は、火野映司が守ろうとしても手の届かなかった一人の少女を抱き留めて救助し、火野映司を庇おうとした泉比奈(高田里穂)を引き留めて抱き締めて守った。
次週の予告によると、後藤慎太郎に重大な展開がありそうだ。伊達明に危機あり、その代役として後藤慎太郎が変身するのかもしれないのだ。大いに期待しておこう。対するグリード側ではカザリ(橋本汰斗)とともについにロスト=アンク(飛田光里/声=入野自由)が出動するようで、換言すれば、ウヴァ(山田悠介)は再び冬眠の模様。そうやって最後まで生き延びて欲しい。
D-BOYS情報ブログにおける四月三十日付の記事で山田悠介も大きな魚を手にして満面の笑顔で「セルメダルを蓄えた強いウヴァさんに期待大」と述べている。