渡る世間は鬼ばかり第十部第二十九話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田壽賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
最終部=第十部第二十九話。
このドラマにおける「インターネット」は、現実の世界におけるインターネットに比較してどのような違いがあるのだろうか。少なくとも全く違っていることだけは既に明白だが、一つ確実に云えるのは、このドラマにおける「インターネット」の影響力は現実の世界における今日のインターネットやテレヴィの影響力を遥かに凌駕するのみか、恐らくは二十年も三十年も昔のテレヴィの影響力をも超越しているのではないかとさえ思われるということだ。
なぜなら小島家ラーメン店「幸楽」の元店主の小島勇(角野卓造)と、現在の店主の田口誠(村田雄浩)に、曙商店街の中本源太(山本コウタロー)、川上哲也井之上隆志)、そして「欽ちゃんバンド」で一世を風靡したこともある金田典介(佐藤B作)を加えて結成された「親父バンド」(「曙親父バンド」)という名の親父バンドは、或る企業がインターネット上で配信しただけのCMに楽曲と演奏を提供して評判になり、次いで演奏する姿をとらえた映像をも公開した結果、今や世間の話題を独占し、アイドルのように持て囃されるに至ったのだからだ。老若を問わず多くの女子たちや婦人方が「幸楽」に詣でては小島勇の姿を見て感激したり、田口誠の考案した「幸楽ラーメン」を食べたり、大量の餃子を注文して持ち帰ったりして、もともと常連客に恵まれて何時でも繁盛していた「幸楽」は、今が春かと、空前の大繁盛を謳歌しているのだ。
インターネット上で話題を集めたCMと云えば、現実の世界では、最近では九州新幹線のCM位しか思い付かない。
ともあれ、「インターネット」の驚異の影響力によって今や空前の大繁盛を見る「幸楽」が今後どのようになりゆくのかを、あれこれ考えてみるのも楽しかろう。例えば(1)現在の繁栄は所詮は話題先行の流行でしかなく、流行は永続しないと考えるなら、空前の繁盛による満席状態を避けて多くの常連客を失ったのち、流行にまでも去られたなら、あとには一気に売上が落ちる事態になるかもしれない。或いは(2)餃子の注文が殺到する現状に対処するため朝早くから大量の餃子を拵えておいて昼や夜の注文に備えるしかなくなっていることが今宵の話の中で明かされていたが、そうであれば、これから梅雨や夏を迎え、食品の傷み易い季節に入って、料理店としては取り返しの付かない事件を発生させる展開も決してあり得ないわけではない。
だが、こうした常識的で論理的な読みから見事に逸れるのが橋田寿賀子である以上、一体どのような奇想天外な話が続くのかに注目しよう。
高級料理店「おかくら」では、店主の岡倉大吉(宇津井健)の娘であり後継者であると目される本間長子(藤田朋子)が、夫である本間英作(植草克秀)の母、本間常子(京唄子)が最近ゲーム・センターで遊んでいるらしいとの噂を耳にして、その真相を確かめるべく、店の若き板前である森山壮太(長谷川純[ジャニーズJr.])に調査を依頼した。
彼は探偵の真似をして店主の親族の秘密を探る仕事を引き受けたくはない様子だったが、岡倉大吉からも頭を下げられては断ることもできず、私生活では決して行くこともないゲーム・センターへ行き、直ぐに本間常子の姿を発見したが、同時に本間常子に見付かってしまい、あたかも仕事を怠って遊んでいるかのように誤解され、叱られてしまった。
さらに彼にとっては不幸なことに、同じ日の夜、本間長子と本間英作が本間常子にゲーム・センターの件で詰問したところ、本間常子は森山壮太が本間長子に云い付けたのだろうと受け取った。本間長子が森山壮太に偵察をさせたのだろうとは思いも寄らなかったようだ。これは本間長子にとっては幸いなことだったが、森山壮太にとっては納得ゆかぬことだろう。