仮面ライダーオーズ第三十八話

東映仮面ライダーオーズ/OOO」。
第三十八話「事情と別れと涙のバース」。
仮面ライダーバースは、伊達明(岩永洋昭)から後藤慎太郎(君嶋麻耶)へ継承された。伊達明は多分かなり早くからそれを望み、後藤慎太郎はその使命に気付いてはいたものの、伊達明が決死の作戦に失敗して倒れたのを目の当たりにして、漸く決意してその使命を受け止めた。
伊達明の教えを身体で憶え、自身の信じる伊達明の思いを引き受け、伊達明のバースを継承して変身した後藤慎太郎と、全ての使命を完全に遂行して自身の治療のために去った伊達明。伊達明から後藤慎太郎へのバースの継承は、悩める青年だった後藤慎太郎の迷走から、伊達明による後藤慎太郎への特訓を経て、二人揃っての実戦経験と、さらには後藤慎太郎が伊達明を助ける局面の連続にまで至る過程がこれまで約四ヶ月間以上かけて描かれてきた結果、文句のつけようもない説得力を持った。
伊達明は最後まで、新バース=後藤慎太郎の師であるに相応しく、器の大きさを見せた。彼が後藤慎太郎や火野映司(渡部秀)を裏切ったのは、敵側に転じたドクター真木清人神尾佑)を助け出すための策だった。正確には、鴻上財団会長の鴻上光生(宇梶剛士)の密命によって真木清人のグリード化を阻止するために、敢えて裏切ったかのように見せかけて敵陣に潜入していたのだ。
この危険な作戦が成功した暁には、鴻上光生から多額の報酬を受け取る約束をしていたようだ。作成には失敗したので報酬は支払われなかったようだが、危険手当は支払われた。これにバースの後継者として後藤慎太郎を育成した報酬と、退職金を加えて、計五千万円が支払われた。会長席の机の上に準備されていた札束の山から考えるに、作戦の失敗によって支払われなかった成功報酬は五千万円ではないかと想像できる。成功していたら一挙に最大一億円が支払われていたかもしれないのだ。生憎ドクター真木清人を逃してしまい、五千万円も逃したが、先にドクター真木清人から、裏切りの報酬一億円の内の前金五千万円を支払われていたので、目出度く一億円を稼ぐことに成功した。
伊達明が一億円を稼ぎたかった理由は、戦地に医学校を開設することではなかった。頭の中に留まっている弾丸を抜き取るという極めて危険な手術を引き受けて、しかも成功させてくれるのは闇の世界に生きる一流の医者だけであり、そんなブラックジャックに手術を依頼してでも全快するためには一億円もの大金が必要だったのだ。手術が成功した暁には彼は再び戦地へ赴いて「闘う医師」として活躍するのだろうし、現地の若者たちに医学を教えて、そこでも後継者の育成に奮闘するのではないだろうか。
バースに変身するに至った後藤慎太郎の心身に充溢した格好よさと、伊達明の去りゆく空港へ敢えて見送りに行かなかった愛の深さについては贅言を要しないだろう。
バースに関する一つの仮説が却下された点は、やはり注目に値する。伊達明のバースはもともとヤミー相手には強かったが、グリード相手には最初から歯が立たなかった。その理由については、本年一月二十三日放送の第十九話において、カザリ(橋本汰斗)がバースを見下して発した「所詮セルメダル専用」という語によって説明できるように思われた。ところが、今回の戦闘で後藤慎太郎のバースは乱暴なまでに激しく攻撃してカザリとメズールとガメルの三体をまとめて圧倒してみせたのだ。
グリードを弱らせる力がバースには備わっていた。伊達明はそれを引き出せなかったが、後藤慎太郎はそれを引き出せた。無論これはバースの機能をどこまで把握しているかの差であり、もっと明確に云えば、バースの取扱説明書を全く読まなかった者と完全に熟読し把握した者との差に他ならない。このことは実は、先述の第十九話において既に予測できていた。当時ここの吾が感想文で書いたことを引用すれば、「もし仮面ライダーバースにもグリードに対抗し得る方法があったとしても、伊達明はそれを容易には知りようがない」。「なぜなら彼は、自ら豪快に宣言していたように、取扱説明書を殆ど読んでいないからだ。家電製品等でも、初歩の使用方法は説明書を読まなくとも解るかもしれないが、特別な使用方法を知るには、やはり説明書を読まなければならないだろう。伊達明は仮面ライダーバースの可能性を未だ最大限には引き出し得ていなかったのではないのか?と考えることができる」。