旅行記三/西郷南洲銅像と鹿児島市立美術館

旅行記三。
今朝も八時頃に起きてホテルの一階の食堂で朝食。昨日とは違う料理が出ていて、またしても少し食べ過ぎた。窓の外には大いに雨が降っていたので、宿泊室へ帰る前に外出して、近所の店まで駆けて、傘を買ってきた。室内で暫し休憩したあと、荷物をまとめて、十時頃にホテルを退出。幸か不幸か、このとき既に雨は止んでいて、傘が無駄になってしまったが、荷物と一緒に持ち帰るしかない。タクシーで鹿児島中央駅へ行き、コインロッカーへ荷物と傘を預けたあと、路面電車で朝日通へ移動。
停留所から城山へ北上すれば、その彼方には山の緑を背にして建つ南洲西郷隆盛銅像が見えてきた。この銅像桜島を見なければ鹿児島に来た甲斐がないとさえ思われるので、最後に見ることができて安堵した。
銅像に隣接する鹿児島市立美術館が今朝の目的地。滞在できる時間の限られている中、慌ただしく特別展「ポール・デルヴォー展」と「夏の所蔵品展」を観照。
所蔵品展では西洋の近代美術をたどり得るように作品を配しているのも見応えがあるが、日本美術に関しては鹿児島に所縁の人々の作品で展示を構成していて、その顔触れの充実に驚いた。木村探元は狩野派の一員として有名だが、押川元春の《寒山拾得》の不気味な顔の表現には迫力があって、他にどんな絵を遺しているのか興味を持った。橋口五葉の《河岸の子牛》は流石に上手い。黒田清輝の《風景》も素晴らしいが、藤島武二の《裸体習作》は、若くない男の背中を的確に描いて、見事だった。東郷青児の《コルの村はずれ》や海老原喜之助の《浴後》は大人気の画家の、一般には知られない側面を見せるかのようで実に良かった。ラファエル・コランの《夫人肖像》も爽やかな作品。
明治の文化財保護事業に尽力した新納忠之介の木彫《大黒天》が、薩摩切子をはじめとする工芸作品群と一緒に並んでいるのも面白いが、何といっても見逃せないのは、安藤照の《日本犬ハチ公》と安藤士の《忠犬ハチ公》。安藤照は、この美術館に隣接する西郷隆盛銅像の原作者に他ならないが、実は渋谷駅前の忠犬ハチ公銅像の最初の原作者でもある。それはハチ公の生前に制作されて建立され、除幕式にはハチ公自身も出席したらしい。戦時に銅像の供出によって一時は姿を消したが、戦後に再建された。そのとき「再制作」を引き受けたのが安藤照の子息、安藤士だった。その石膏原型がこの美術館に展示されているのだ。隠れた名作と云える。
売店で「ポール・デルヴォー展」図録のほか、新納忠之介、橋口五葉、江口暁帆、薩摩画壇四百年史の各展覧会図録、黒田清輝藤島武二和田英作の解説書を購入して館を出て、屋外の彫刻も見たあと、再び西郷南洲銅像を見てから朝日通の停留所へ。途中、小松帯刀銅像も遠くから眺めた。
路面電車鹿児島中央駅へ行き、駅の中にある土産物店で知覧茶「水で冷やす緑茶」と「かごしま知覧茶のうさぎクリーム大福」を購入。知覧茶は、昨日、知覧で購入したかったものの、時間の余裕がなくて購入できなかったので、本日ここで購入できて幸いだった。駅の中にある地元の鮮魚の寿司店で寿司一箱を購入して新幹線に乗車し、昼一時三十八分に鹿児島中央駅を発って夕方四時十四分に広島駅へ到着。
広島駅を出て急ぎ路面電車の停留所へ行き、五号線の電車に乗って比治山を経由して広島港へ。五時三十分に広島港を発って松山観光港へ着いたあとは直ぐに道後温泉行のリムジンバスに乗り、帰宅し得たのは夜八時頃。