仮面ライダーフォーゼ第四十五話

仮面ライダー生誕40周年記念作品「仮面ライダーフォーゼ」。
第四十五話「天・秤・離・反」。
天ノ川学園の高等学校長をつとめながら実際には多くの生徒たちをゾディアーツに仕立て上げて破滅させてきた天秤座ゾディアーツ=速水公平(天野浩成)。
この学園の理事長をつとめながら実際にはゾディアーツ集団「ホロスコープス」の頭領として謎の悪事を推進しつつある射手座ゾディアーツ=我望光明(鶴見辰吾)に、彼は公私ともに心酔してその指令に従い続けてきたわけだが、ここ暫くの間の彼はそのことが本当に己にとって有利であるのかに疑問を感じて始めているようだった。そして今や速水公平は、我望光明の野望があらゆるゾディアーツを踏み台にして成り立つものであり、ゆえにその手足として大いに働けば働く程に己の破滅を近付けることにしかならないことを正確に理解した。
こうして速水公平はホロスコープスを裏切った。そしてフォーゼ=如月弦太朗(福士蒼汰)やメテオ=朔田流星(吉沢亮)や、彼等の仲間「仮面ライダー部」と一緒に敵と戦いたいと思い付いて、如月弦太朗にもそのように申し出た。
如月弦太朗は無論それを何時ものように受け容れてしまうわけだが、歌星賢吾(高橋龍輝)や朔田流星やJK=ジェイクこと神宮海蔵(土屋シオン)は流石に冷静だった。特に朔田流星は、仲間として受け入れるための証として、速水公平から変身の能力を召し上げてしまった。このことが結局は、今朝の話の後半における速見公平の危機を生じたのみならず、黒木蘭(ほのかりん)をゾディアーツに変身させる原因をもなしたのであるから皮肉と云うほかない。
もっと示唆に富んでいたのは歌星賢吾の、江本州輝(山崎一)の二面性に関する発言だろう。江本州輝はタチバナとしてはフォーゼやメテオの支援者だったが、ヴァルゴとしてはフォーゼやメテオの強敵でもあった上、多くの生徒たちをホロスコープスの犠牲にしてきた当事者でもあった。歌星賢吾は、今回の速水公平の言動から、かつての江本州輝のこうした言動を想起した。そして彼は、江本州輝であれば我望光明の一番の味方だった以上、その秘密も弱点も知っていた可能性があり、しかも当初からの裏切り者でもあった以上、それをどこかに書き残して隠している可能性も皆無ではないと思い至ったのだ。
同時に彼のこの言は物語の構造性を語るものでもあり得る。
ホロスコープスは重大な局面で今、天秤座ゾディアーツという裏切り者を出した。それどころかホロスコープスの最重要人物だったはずのヴァルゴが実は当初から裏切っていて、云わば裏切り者によって構成されたような孤独な集団でしかなかった。仮面ライダー部がその逆をゆくことは見易い。なにしろ如月弦太朗は学園内の敵対する連中と闘いつつ、意を通じ合わせて仲間(「ダチ」)とし、友として、仮面ライダー部を形成してきた。その過程では朔田流星のような潜入工作員をも、その裏切り行為をも受け容れることによって改心させて、むしろ最愛の友にし得た。
黒木蘭の決断もこの構造性に関連付けられ得るように見える。なぜなら黒木蘭が魚座ゾディアーツに変身することを決意したのは仲間たちを守るためであり、ゾディアーツに変身したこと自体が仲間への裏切り行為であると云えなくもないものの、変身の目的がホロスコープスを裏切るものであると同時に、変身という裏切り行為をも乗り越えて友を守るものであると云えるからだ。