海の上の診療所第四話

月九ドラマ「海の上の診療所」。第四話。
美しい瀬戸内海の島々をめぐり、無医の集落に年に一度の医療を施している瀬戸内海翔洋病院の診療船「海診丸」。この船の主であるその瀬戸内海海翔洋病院の理事長の令娘、藤井みちる(瀧本美織)が研修医として乗船してきたが、嫌な奴だった。この人物の嫌なところは、夕食に文句を云った場面に集約されていた。理事長の後継者と目されるこの研修医の機嫌を損ねたくないと考えた「海診丸」事務長の日内晃(荒川良々)の指示を受けて船長兼料理長の海藤剛(寺島進)が拵えた豪勢な夕食を、この研修医は贅沢であり無駄であると断罪したのだ。しかもその上で、斯かる浪費の温床ともなっている診療船という存在そのもの、さらには離島診療という事業そのものがそもそも無駄であり、そうした無駄を削減し、都市部にある病院に投資を集中させることこそ病院経営の効率を向上させ得るはずであるとまで述べたのだ。
この令娘の言が気に入らないのは、後半の、ここ十五年間も国内の言論と現実を席巻してきた構造改革論をここでも繰り返そうとしている言が愚かしく見えるからである以上に、前半の、夕食に対する苦言が周囲に対する不注意の露呈でしかないからに他ならない。この令娘の前に並べられた豪勢な夕食それ自体は確かに無駄だろう。だが、己が贅沢な夕食を振る舞われているとき、同じ卓上で他の船員に供されている夕食がモヤシの山でしかない事実に、なぜ気が付かないのか。この極端な格差が己の立場の特殊性の表出でしかないことに気付いて然るべきではないのか。海診丸の現実は、モヤシの山に表れている。無駄削減どころか、もはや削減の余地もないというのが現実であり、そこへ乗り込んできて贅沢な夕食を享受する己の存在こそが削減されるべき無駄であるということを、令娘は自覚しなければならなかった。
看護師の戸神眞子(武井咲)の反発は実に真理を突いていた。
今回、阿岐之島で訪問診療に回る青年医師の瀬崎航太(松田翔太)に藤井みちるとともに同行した看護師は、戸神眞子ではなく三崎昇(福士蒼汰)。無論これは戸神眞子が藤井みちるに反発していて一緒に行動させるのは危険であると見られたことから取られた臨時の措置でしかない。次回からは再び、三崎昇は船で留守番をする立場に戻ることだろう。しかし三崎昇は、診療中の休憩時には島で最も景色の美しい場所へ皆を案内した上、持参した水筒とコップで皆に茶を振る舞って、ピクニック気分の楽しさを演出してみせる準備の良さをも発揮した。
令娘の滞在中、その居室にするため三崎昇は居室を明け渡すことになり、その間は瀬崎航太の居室に同居することになった。瀬崎航太はもちろん嫌がっていたが、三崎昇は喜んでいた。しかるに同室中の様子が描かれなかったのは残念。