仮面ライダー鎧武第十四話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第十四話「ヘルヘイムの果実の秘密」。
深刻な展開があり、それ以上に重大な真相が明かされた。物語の全体を通じて一つの画期をなすに相違ない。まずは事実関係を整理しよう。
葛葉紘汰(佐野岳)の眼前で、初瀬亮二(白又敦)はヘルヘイムの果実を食べてインベスと化し、ついには退治された。退治したのはユグドラシルが新たに開発した「ゲネシス」のアーマードライダー四人衆の一人、シグルド。その正体はシド(浪岡一喜)。このことから判るのは、シドはもともと単なる密売人「錠前ディーラー」ではなく、むしろユグドラシルと契約した傭兵だったということだろう。
ゲネシスのアーマードライダーを率いるのはもちろん、アーマードライダー斬月・真の呉島貴虎(久保田悠来)。そして彼の配下のユグドラシル警備隊「黒影トルーパー」は直ちに葛葉紘汰の身柄を拘束し、連行した。
これに先立って、既にアーマードライダーバロン=駆紋戒斗(小林豊)が、初瀬亮二を守ろうとしていた葛葉紘汰に加勢して、斬月・真=呉島貴虎に立ち向かった末に返り討ちに遭い、黒影トルーパーに身柄を拘束されて連行されていた。
このとき斬月・真は「きさま如きが、ユグドラシルに刃向えると思ったか?」と云い捨てたが、駆紋戒斗にとってユグドラシルは云わば親の仇、故郷の敵であり、予て敵対してきた斬月・真がユグドラシルの幹部でさえもあると認識し得たことは、今後の駆紋戒斗の行動に多大の影響を与えることだろう。
他方、葛葉紘汰の必死の説得に何程か反応したのか、初瀬亮二は一旦は人間の姿に戻ったが、腕はインベスの姿のままだったし、葛葉紘汰に対する攻撃を止めることはなかった。しかも甚だ厄介なことに、中途半端に元の姿に戻った状態でインベス=初瀬亮二はフルーツパフェの店「ドルーパーズ」へ現れた。店長の阪東清治郎(弓削智久)がその異変に直ぐに気付き得たのは、初瀬亮二の腕がインベスの姿をしていたからだろうが、同時に、カウンター席にいたダンス集団「鎧武」のリカ(美菜)とラット(小澤廉)が初瀬亮二に近付こうとしたのは、そのような一部を除けば全体が人間の姿をしていたからだ。
阪東清治郎が大声で「近付くな!」と叫んで警告を発したにもかかわらずリカは近付こうとして、庇おうとしたラットが背中に攻撃を受けて負傷し、流血した。初瀬亮二がインベスと化したのに続いて、今度はラットが、ヘルヘイムの植物と化してヘルヘイムの果実を生じるのだろうか。
友の一人がインベスと化して退治され、友の一人がヘルヘイムの植物と化してゆくかもしれないという悪夢のような展開。そうした中で葛葉紘汰は常に、人間を、しかも友を殺すことはできないと思い続けていた。だが、冷静に考えるなら、彼は今までにも多くのインベスを退治してきたのであり、退治された中に、ヘルヘイムの果実を食べて人間からインベスと化した者がいなかったとは断言できないのだ。それは、ユグドラシル警備隊が焼却し、隠滅してきたヘルヘイムの植物の中に、インベスに襲われて植物と化した人間がいたかもしれないのと同じことだ。
葛葉紘汰は(昨年十月二十七日放送の第四話において)ヘルヘイムの森で襲ってきた斬月から「戦いに意味を求めてどうする?答えを探し出すよりも先に、死が訪れるだけのこと」と告げられていたことをあらためて想起した。このような悲劇が訪れることを斬月はあのとき予告していたのだ。
実のところ葛葉紘汰は既に、彼を絶望させ得る行為を果たしていた。恐るべき真相を彼は未だ知らされていないが、呉島光実(高杉真宙)は知ってしまった。
呉島光実は斬月の正体であると判明した兄の呉島貴虎が何を企んでいるのかを知りたいと思い、勇敢にも、兄を尾行してユグドラシル本社屋への潜入に成功した。そこで彼は、人工のクラックがあり、大勢の人々が出入りしているのを目撃した。次いで彼が覗き込んだ広大な会議室では、兄が今後の計画について語っていた。それを聞いていたのはシド。シドが兄と結託していたという事実は、それ自体が呉島光実にとっては重大だろうが、もっと重大な事実が次々に明らかになった。
呉島貴虎は、ゲネシス・ドライバー開発の成功を受けて、その量産化を進めるのが今後の課題であると語った。この方針について開発者の「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)は納得していないらしい。呉島貴虎の発言に対してシドが違和感を表明したことから、それは明らかだった。呉島貴虎とプロフェッサー凌馬との間の方針の対立は、今後の展開を左右するに相違ない。
やがて呉島貴虎は「カテゴリーH」の出現について連絡を受け、シドを連れて会議室を出た。カテゴリーHというのが初瀬亮二であるのは云うまでもない。シドは「気が滅入る仕事だねえ」と云っていた。
呉島光実にとっては幸運にも、兄はパソコンをその場に放置してくれた。彼は兄のパソコンを操作して過去の「研究記録」を盗み見ることを得た。そこにはプロフェッサー凌馬による様々な報告があった。
例えば、ヘルヘイムの果実を実験用のネズミ(「モルモット」!)に与えたところ、ネズミは直ぐに小さなインベスに変貌した。遺伝子レベルで変貌しているらしく、ゆえに変貌の前と後では別の生き物になっていると見てよいのだろう。この研究成果は、インベスを退治することの心の痛みを和らげ得る事実であるかもしれない。反面、インベスが皆この世界の生き物の成れの果てである可能性を物語る。呉島光実はそのように考えたようだ。人々の愛する猫や犬がインベスに変貌したのかもしれないのだ。(関連して云えば、この実験結果や今までの事例から推測するに、小さな動物は小さなインベスに、大きな動物は大きなインベスになるらしく、人間は他の動物がインベスになる場合よりも高等なインベスになるらしいとも考えられる。)
そして彼は、もっと恐ろしい事実を知ってしまった。
昨年十月六日。ダンス集団「鎧武」のリーダーであり、その日から行方不明になっている角居裕也(崎本大海)は、ヘルヘイムの森へ迷い込んでいた。戦極ドライバーを脇に抱えた彼は、樹木に成る果実に心惹かれ、もぎ取り、皮を剥いて、出てきた半透明の美しい果肉を頬張った。彼は白虎インベスに変貌した。こうして「ヘルヘイム感染により変態した犠牲者は、その後、被験者ナンバー01により排除された」。
角居裕也は、その一番の親友である葛葉紘汰によって「排除」されていた。
インベスに変貌した初瀬亮二を前にして葛葉紘汰が、たとえインベスと化して人間の身も心も完全に失っているとしても元来は人間だった者を、仲間だった者を殺すことはできるのか?を自らに問いかけ、苦悩していたとき、葛葉紘汰の友の一人である呉島光実は、葛葉紘汰が既に、知らぬ間に一番の親友の角居裕也(を前身とするインベス)を殺害していた事実を知ってしまった。
葛葉紘汰自身も知らない重大な真相を知った呉島光実は、一体、今後どのように葛葉紘汰に接するのだろうか。葛葉紘汰が真相を知るときが来たとき、葛葉紘汰は何を思うのだろうか。
もう一つ、衝撃の事実として、番組の合間の仮面ライダー大戦の映画のCMで初代仮面ライダーの「藤岡弘、」が「平成ライダーだと?甘ったれるな!」「平成ライダーなどライダーとは認めん!」と宣言していたことがある。