仮面ライダー鎧武第十五話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第十五話「ベルトを開発した男」。
前回に続いて激動があった。場所はユグドラシルの巨大な城「ユグドラシル・タワー」の内部。
葛葉紘汰(佐野岳)は、アーマードライダー斬月・真=呉島貴虎(久保田悠来)によって倒され、鎧武の戦極ドライバーとオレンジのロックシードを没収され、黒影トルーパーによってそこへ連行された。同じように駆紋戒斗(小林豊)もバロンの戦極ドライバーとバナナのロックシードを没収されて連行され、城内のエレベーター内で合流し、広大な研究室へ通された。両名を迎えたのは戦極ドライバー開発者の「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)と、護衛の湊耀子(佃井皆美)。
二人の「被験者」を陽気に歓迎した戦極凌馬は、己の業務であるアーマードライダー開発の現状について概要を親切に説明してみせた。(1)鎧武とバロンそれぞれに変身するとき戦極ドライバーから聞こえてくる謎の音声「花道オンステージ」と「ナイト・オブ・スピアー」は、何れも戦極凌馬の「趣味」に基づく遊びに過ぎないこと、(2)彼の担当している業務は「ベルトの開発」のみであり、ビートライダーズの若者に戦極ドライバーを試用させて「モルモット」に利用する計画は「主任」の考えたことであること、(3)ヘルヘイムの森の果実には計り知れない力があり、それを摂取した人間を別の生物(「インベス」)に変化させてしまう程であるが、その養分を安全に摂取できれば、人間に新たな進化の可能性を拓き得るのであり、そのための道具が戦極ドライバーであること、(4)戦極ドライバーの試用の結果に基づいてその量産化に成功したことで彼の任務は一応の完了を見たこと、しかるに(5)彼はもっと「強力で全能なる神の力に至るための」研究開発を続行したいと考えていること、ゆえに、(6)葛葉紘汰と駆紋戒斗の両名には引き続き「協力」を願いたいこと。
この説明を聴きながら葛葉紘汰と駆紋戒斗は常に怒っていたが、怒りに任せて戦極凌馬に掴みかかろうとする度に湊耀子に激しく阻止されていた。ついに駆紋戒斗は、眼前の敵の説明を確と聴く必要があると云って葛葉紘汰を制したが、そうして大人しく引き下がったように見せかけておきながら、密かに得意のトランプ手品を駆使して戦極凌馬を射撃しようとして、結局は、湊耀子によって一段と激しく阻止されていた。簡単に倒されて踏み付けられていた駆紋戒斗の姿は哀れだったが、何度やられても負けない不屈の闘志は好ましい。戦極凌馬が何度も襲撃されようとしていたのに一向に動じることなく陽気に話し続けていたのも面白い。
もっと面白いのは、新たに改良された戦極ドライバーを試用して欲しいとの戦極凌馬からの申出を固く断った葛葉紘汰と駆紋戒斗が、実はそれを是非とも入手して活用したいと考えていたこと。どのような形で入手しようとも、それを活用すれば結局は「モルモット」にされてしまうわけだが、両名とも気付いていないのだろうか。否、たとえ気付いていようとも、ともかくも戦極凌馬から与えられるのではなく、自ら獲得したいと考えたのだろうか。不屈の闘志がこのような意地を生じるのは、なるほど肯ける。
他方、前回の話で既に城内への潜入に成功していた呉島光実(高杉真宙)は、角居裕也(崎本大海)の末路を知って深刻な衝撃を受けていたが、何とか立ち直ったのか、今回、密かに脱出しようとしていたところで葛葉紘汰と駆紋戒斗の連行されてゆく姿を偶々目撃した。当然、彼は隙を見て葛葉紘汰の解放を図るべく、脱出を今は思いとどまり、両名の次の動きを待った。やがて両名が独房へ連行されるのを目撃し、尾行を始めた。
この間、葛葉紘汰と駆紋戒斗の身柄の確保に成功してユグドラシル・タワーへ戻った直後の呉島貴虎は、両名の今後の処遇についてシド(浪岡一喜)からの質問に応えて自身の見解を述べたが、それに異存あるDJサガラ(山口智充)が意見を述べるという場面があった。やがてDJサガラは独房の葛葉紘汰の前に現れて意見を聴取し、意を得て喜んで、新たな武器とともに脱走のための鍵を与えて去った。そこへ呉島光実が現れて葛葉紘汰と駆紋戒斗を導き、追手に防戦する中で三名は別々に行動せざるを得なくなったが、地下の研究室にある巨大なクラックの向こう側のヘルヘイムの森で葛葉紘汰と駆紋戒斗は合流し、共闘して追手のアーマードライダーシグルド=シドから逃げ切って、ロックビークルを駆って街への脱走に成功した。しかるにシドには両名を追い落とす余力があった。シドを制して鎧武=葛葉紘汰とバロン=駆紋戒斗の脱走を助けたのはゲネシスのアーマードライダー衆の一人、アーマードライダーマリカで、その正体は湊耀子だった。鎧武とバロンを脱走させて「泳がせる」ことを湊耀子に命じたのは、無論、戦極凌馬に他ならなかった。
ユグドラシル内部の対立が見える。呉島貴虎は、アーマードライダーの量産によってヘルヘイムの森からの侵食を防御することのみを考えていて、従って、量産化へ向けた試験として街のビートライダーズの若者たちを「モルモット」にしたことの目的が既に達成された以上、「被験者」は今は「保護対象」に移行したと考えている。不良青少年を軽蔑してはいるが、見捨てようとはしていない。シドはビートライダーズに最も身近に接していたにもかかわらず何の愛情もなく、見捨てても消し去っても構わないとさえ考えている。彼等とは異なり、DJサガラは、誰がヘルヘイムの森に選ばれるのか?という予て提起されてきた問題に関して、ユグドラシルよりはむしろビートライダーズの若者たち、特にアーマードライダー鎧武=葛葉紘汰にこそ最も可能性があるかもしれないと見ている。プロフェッサー戦極凌馬はユグドラシルの方針、特に呉島貴虎の方針に反して戦極ドライバーの研究開発をもっと推進したいと願望していて、そのためには葛葉紘汰と駆紋戒斗の可能性に賭けたいと考えている。
このような対立、勢力均衡は、葛葉紘汰と駆紋戒斗を翻弄しつつも助けるのかもしれない。なぜなら戦極凌馬は呉島貴虎に対抗するためにも葛葉紘汰と駆紋戒斗を後方支援し続けるかもしれないが、そうなると湊耀子もシドも同調せざるを得ないだろうし、DJサガラに至ってはそもそも呉島貴虎よりも葛葉紘汰にこそ可能性を見出しているからだ。
他方、葛葉紘汰と駆紋戒斗がこのように新たな道を進み始めたとき、呉島光実は別の新たな道を進もうとしているのかもしれない。先ず彼は、牢獄から脱出した葛葉紘汰と駆紋戒斗とともにプロフェッサー戦極凌馬の研究室に忍び込み、改良された戦極ドライバーとロックシードを取り戻していたとき、研究室のパソコンのモニターに映っていた角居裕也の映像を何としても葛葉紘汰には見せないようにしようとした。そのためにパソコンを下手に操作したことでユグドラシル側に異変を察知されてしまい、派手な逃走劇が始まったわけだが、ともかくも彼は葛葉紘汰に対して真実を隠した。葛葉紘汰に深刻な絶望感を与えかねない真実を隠したのは当然だが、これは深刻な事態の先送りでしかないように思われる。そしてそのあとの派手な逃走の過程で他の二人と別れた呉島光実は、追手に追い詰められたところでアーマードライダー龍玄に変身して応戦した。兄の呉島貴虎は監視カメラの映像で見ていた。脱走者と一緒になぜか弟が行動していた姿を、そして弟が龍玄に変身した姿を。当然、この弟を溺愛する兄は、弟に対して行動を起こさなければならない。兄の行動は弟に重大な変化を与えるかもしれない。それは次週にも見ることができるのだろう。
それにしても、戦極凌馬の研究室のモニターに角居裕也の映像が映っていたのは偶然だろうか?それとも、葛葉紘汰と駆紋戒斗に強烈な刺激を与えるための、戦極凌馬の策略だろうか。
他にも印象深い場面があった。ダンス集団「鎧武」の高司舞(志田友美)とチャッキー(香音)が、「バロン」のザック(松田岳)とペコ(百瀬朔)、「レイドワイルド」の二人、「インヴィット」の二人を集めて、インベスゲームの自粛を呼びかけた場面。この場面は、事態が深刻であることを真に理解できているのが今のところは、葛葉紘汰と駆紋戒斗と呉島光実を除けば「鎧武」の面々だけであることを表しているが、同時に、「レイドワイルド」が未だ解散してはいなかったことをも明かしている。「鎧武」の人々が「リーダー」角居裕也の不在を心配しつつも健在を信じているように、「レイドワイルド」の人々も初瀬亮二(白又敦)の行方不明を気にしながらも、今なお彼を「リーダー」と見ているのだ。何れにせよ、事態はどんどん変化しているが、多くの人々は大して気付いてもいない。事態を深刻に受け止め切れていなければ問題の解決に動くはずもない。インベスゲームを止めようとも思わない。リーダーの行方不明に頭を抱えている「バロン」や「レイドワイルド」や「インヴィット」の連中でさえもこの有様である以上、他のビートライダーズが何をしでかすか分からない。