仮面ライダー鎧武第十六話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第十六話「新アームズ!ジンバーレモン誕生!」。
アーマードライダー鎧武=葛葉紘汰(佐野岳)は、ユグドラシルの独房に閉じ込められていたときDJサガラ(山口智充)から何の説明もなく提供された謎の新たな部品と謎のレモンのロックシードを、一体どのように使えば良いのか判らず、困惑し苛立ってもいたが、街中で暴走し始めた上級インベスを相手に苦戦を強いられていた中の幸運の偶然によってそれらの使用方法を発見し得て、新たな鎧武の形態、ジンバーレモンアームズを出現させた。
新たな武器を獲得しても直ぐにはその使用法を判らず、焦りながら試行錯誤するのが毎度のことになっていて、そこが話を面白くもしている。
ここで甚だ憤らざるを得ない事実は、インベスをけしかけていた犯人が、ビートライダーズ中の一派だったことだ。それは昨年十一月十七日放送の第六話に登場した曽野村(北代高士)率いるダンス集団「レッドホット」。彼等はロックシードの「リミッターカットの裏技」を知って実体化したインベスを召喚し、思いのままに悪事を働いていた。強盗までも働いていたのだ。しかも彼等だけではなく、ビートライダーズの多くが同じように暴走し始めているらしく、実のところは、今や、街で発生するインベス暴走事件の何割かはビートライダーズの仕業であるらしい。ビートライダーズへの人々の敵視は、最初こそ濡れ衣だったかもしれないが、結局は現実に合致してしまっていた。
ロックシードを所有するビートライダーズの中で、そのような悪事に走らないと確実に断言できるのは高司舞(志田友美)の鎧武と、駆紋戒斗(小林豊)のバロンだけであるのかもしれない。
葛葉紘汰は、平然と悪事を働いていたレッドホットの基地に乗り込み、自身を嘲笑する一味を前に、「俺は人間が化物になっちまうのを見た。あんな光景…もう二度と見たくないと思ってた。でも、おまえらは、見た目は人間のままでも、やってることは化物と変わらない!」と叫んだ。この言は、レッドホットの連中とは正反対に、無念にもインベスと化した初瀬亮二(白又敦)への鎮魂の辞でもあり得る。
そういえば、避邪インベスと化した初瀬亮二は、(先月十九日放送の第十四話で)阪東清治郎(弓削智久)の営んでいるフルーツパフェの店「ドルーパーズ」で、ダンス集団「鎧武」のラット(小澤廉)を負傷させたが、幸い、ラットはヘルヘイムの植物と化すこともなく、無事に退院することを得た。あの日の初瀬亮二は、ヘルヘイムの果実を摂取してインベスと化して以降は、ヘルヘイムの果実にも植物にも接していなかったようであるから、ヘルヘイムの種を持ち合わせていなかったのだろう。だが、人面獣心のレッドホットの連中と比較するとき、初瀬亮二は完全にインベスに乗っ取られたわけではなかったのではないのか?とさえ思われてこようか。
さらに憤らざるを得ないのは、狂暴なインベスをけしかけるようにレッドホットの連中をけしかけていたのが錠前ディーラーのシド(浪岡一喜)だったことだ。多分、レッドホットに限らず広くビートライダーズの不良な連中に強力なロックシードを大量に提供しているのも、リミッターカットの裏技を教えたのも、全てシドの仕業だろう。葛葉紘汰が指摘したように、彼等はシドに踊らされている。
インベスをけしかけて悪事を働くようにもなればビートライダーズの連中は正真正銘の悪人集団であり、諸悪の根源と目されるのも当然であるような存在になる。ユグドラシルにとっては好都合な展開であるに違いない。
だが、シドがこのような悪事を仕掛けた目的は他に二つあるようだ。
一つは、鎧武=葛葉紘汰を誘き寄せて上級インベスの力で打ちのめすことによって、戦極ドライバーとロックシードを奪還すること。これはユグドラシルにおけるヘルヘイム対策プロジェクトを統括する主任、呉島貴虎(久保田悠来)からの命令に応じるための作戦であると見られる。
もう一つは、インベス退治に奔走する鎧武=葛葉紘汰の行動を監視することによって、ユグドラシル内の研究室から紛失した「試作品」の行方と、紛失を仕掛けた「内通者」を特定すること。これは「試作品」を盗まれた「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)からの提案に応じるための作戦に他ならない。
それにしても、戦極凌馬は本当に「内通者」に怒っているのだろうか。そもそも彼は葛葉紘汰と駆紋戒斗を「モルモット」として今後も利用しようと考えていたのだ。葛葉紘汰が「試作品」を試用するのを、むしろ歓迎したい位ではないのか。それとも、何か不本意な格好で持ち去られたとでも云うのだろうか。
一つ押さえておきたい事実は、戦極凌馬が「試作品」を隠していた保管庫は、戦極凌馬でなければ解除できないと語られていたことだ。それが本当であるなら「内通者」は戦極凌馬と一体であるほかないのではないのか。
レモンエナジーロックシードとコアスロットの「試作品」を葛葉紘汰に流した「内通者」の正体がDJサガラであるのは云うまでもない。しかしDJサガラは、本当に戦極凌馬を裏切ったのか、それとも本当は戦極凌馬と結託しているのか。もし後者であるなら、戦極凌馬がわざわざ「内通者」の存在をシドに語ったことの意図は何か。
他方、呉島光実(高杉真宙)にはもっと大きな変化があった。彼の裏の顔を知った兄の呉島貴虎は、己の溺愛する弟が単に優しく守られなければらないような繊細なだけの人物ではなく、むしろ「本当の戦場」において真に手を携えるにも耐え得る戦友でさえあると認識した。そこで兄は弟に、己の行動の意味が何であるかを教えるため、「ヘルヘイムの森の正体」を見せ付けた。真相を見せられた呉島光実は、愕然として恐れおののいた。真相を公表してはならないと瞬時に理解した。
そして彼は兄に従ってユグドラシルに加わることを決意したようだ。世界が絶望するのを阻止するためにはユグドラシルの非情な計略が必要であると認知するに至ったということだろうか。
今朝の話の最後に重要な会話があった。葛葉紘汰からの「力を手に入れた人間てのはさ、みんな怪物になっちまうのかな?」という質問に答えて阪東清治郎は、「世の中には弱い奴等だって大勢いるだろ?そいつらが全員残らず善人だと思うか?」「逆に強い奴は、ただ強いってだけで悪人だと決まったわけでもない。力そのものに善も悪もないんだ。」と語ったのだ。化物を倒すことが友を殺すことであるかもしれないのと同じく、何人かを犠牲にすることが世界を救うことであるかもしれないと知るとき、力の中立性と二面性を常に考えることは必要であるのだろう。