仮面ライダー鎧武第二十一話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第二十一話「ユグドラシルの秘密」。
葛葉紘汰(佐野岳)は、事態の本質を遠望できてはいたが、反面、眼前の事実には気付けないでいる。行方不明の角居裕也(崎本大海)の末路については今なお想像しようともしていないし、何よりも、大親友であるはずの呉島光実(高杉真宙)が時々見せる怪しさを全く察知できない。しかし反面、ユグドラシルを信用できない!という彼の直観は正しかった。
なぜならシド(浪岡一喜)が暴露したように、ユグドラシルは沢芽市がヘルヘイムの森に覆い尽くされた場合には、「人類を守る」という目的のため、沢芽市を丸ごと焼却することをさえも計画しているからだ。一人の人命が地球よりも重いはずはなく、合理主義に徹した計算からは、人類と沢芽市とを単純に比較した上で、人類の保全のために沢芽市民を殲滅することは正当化されるのかもしれない。だが、それは問答無用で断行されて良いはずがない。なぜならそれは大量虐殺だからだ。
この恐ろしい真実をシドが迂闊にも暴露したのは、暴露した相手である葛葉紘汰を、間もなく自ら打倒して抹殺できると信じていたからだろう。所有の戦闘力の差においてシドは圧勝を確信し、敗北を全く予想していなかったのだろうが、赤心に燃える葛葉紘汰による怒りの反撃を受けて、シドは敗退した。
ここにおいてシドに密かに助け舟を出して逃走させたのは、選りにも選って呉島光実だった。呉島光実は、少なくともこの場面では明らかに葛葉紘汰の敵側にいたと云わざるを得ない。
実のところ呉島光実は、葛葉紘汰を高司舞(志田友美)と同じ位に大切に思ってはいるが、反面、信頼して手を組み得る戦友であるとは思っていない。ユグドラシルが企てている難しい戦略の遂行のためには、直情径行の熱血の赤心の葛葉紘汰を邪魔であるとさえ思っている。そしてその点では、高司舞をも全く信頼してはいない。呉島光実は葛葉紘汰と高司舞を大切な友として見守りたいとは思っていても、内心は馬鹿にしているのか、信頼して良いとは思ってはいない。
だが、呉島光実には用心しておいた方が良いのかもしれないことを、葛葉紘汰に気付かせてくれようとしているかのような要素は既にある。
例えば、葛葉紘汰がユグドラシルで「白いアーマードライダー」から知らされたヘルヘイムの森の真実を呉島光実に話して聞かせたとき、呉島光実が驚きもせず、まるで解り切ったことであるかのように無反応だったこと。それどころか、ユグドラシル側の立場を代弁して、真相を他人には決して明かしてはならないことを主張していたこと。
面白いことに、フルーツパフェの店「ドルーパーズ」の店長の阪東清治郎(弓削智久)は、秘密にも色々あって必要である場合もあるにしても、「何かを秘密にしておこうって云い出した奴のことは、取り敢えず疑ってかかった方が良い」と助言したのだ。秘密を知る者は秘密を知らない者を意の如く操ることができる。秘密は力になり、武器になる。それは呉島光実の現実に他ならない。
呉島光実の兄である「白いアーマードライダー」呉島貴虎(久保田悠来)は、案外、弟とは正反対の人物であるのだろうか。なぜなら彼は部外者であり厄介者でさえある葛葉紘汰に、大切な秘密の一端を明かしてしまったからだ。その理由も良い。弟からの詰問に応えて彼は云った。「邪悪と見做したものに対して、あそこまで真直ぐに怒りを打つけられる奴を、久し振りに見た気がしてな」。そう云って直ぐに「冗談だ」と付け加えたが、どう見ても本気だろう。呉島貴虎は葛葉紘汰に真の盟友を見出しているのだ。なぜなら弟が去ったあと、シドから「冗談」の真意を問われて彼は「ああいう男には、敗北して絶望して逃げ出して欲しいものだ。そうなれば私も、自分のやっていることに諦めがつく」とまで述べたからだ。葛葉紘汰の赤心は呉島貴虎の本心を目覚めさせかねないらしい。
他方、駆紋戒斗(小林豊)は、ユグドラシル内部にあって呉島貴虎を裏切っている「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)や湊耀子(佃井皆美)の支援を得て、ヘルヘイムの森の探索を始めていた。戦極凌馬も湊耀子も「ヘルヘイムの秘密」を知ろうとしていて、そのための危険な仕事を駆紋戒斗に引き受けさせたのだろう。もちろん駆紋戒斗も彼等に利用されようとは思っていない。利用されながら、どのようにして利用し返そうとしているのか。
一つ微笑ましいのは、駆紋戒斗と別れた新生「バロン」のザック(松田岳)とペコ(百瀬朔)が今や完全に「チーム鎧武」の高司舞の仲間になっていること。「チーム鎧武」の基地で寛ぎながら今後の対策について語り合っていた。しかもペコは今なお駆紋戒斗を慕っているらしい。