御座敷電車

出勤。契約書を清書し終えたあとは、説明会を傍聴したあと、二年前に引き受けた仕事を無事に手放すための準備。早く取りかかりたい仕事が二三あるが、なかなか取りかかれそうにない。
夜七時前には退出したはずだが、市内電車(路面電車)の停留所では普段とは比較にならない位に長々と待たされ、体感としては十五分間も二十分間も待たされたような気がする程で、どうしたことか?と思っていたら、漸く到着した電車には「貸切」と表示されていて、見れば中では宴会をやっていた。市内電車で酒宴に盛り上がる人々を初めて見たが、市内電車の貸切というのも初めて見た。驚いた。貸切の電車のあとに漸く普通の道後温泉行の電車が来たので、満員だったが、乗車した。窓の外を眺めていたところ、反対方向へ進行する貸切の電車もあって、中に、添乗していた人の背には「愛媛の酒」という文字が見えた。なるほど、酒造家の主催した酒宴だったようだ。市内電車の路線は短距離で、端から端まで乗っても三十分程度で終わってしまうはずだが、酒宴の時間設定はどうなっているのだろうか?と心配になる。とはいえ市内電車は市街地しか走らないから、どこで降りても繁華街まで歩いて行けるし、タクシーも拾い易いので、「御座敷」の電車としては理に適っている。
貸切の電車が静かに走るので、そのあとを走る普通の電車も緩やかにしか動かず、運転手が謝罪していたが、運行の遅れの原因を「イヴェント電車」の影響と述べていた。なるほど、あの貸切の御座敷電車のことをイヴェント電車と云うらしい。興味深かった。イヴェント電車を走らせているのは経営者であって運転手ではなく、むしろ運転手は被害者でさえあるのに、運転手だけが謝罪させられるというのは理不尽だ。イヴェント電車は上一万駅で左手に曲がり、平和通の方面へ進んだのか、そこから急に道後温泉行の電車の速度が上がった。大型食料品店に寄って、帰宅したのは夜八時の少し前。