仮面ライダー鎧武第二十五話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第二十五話「グリドン・ブラーボ 最強タッグ」。
今回のは番外編だが、物語が大きくは動いていないときの主人公の日常が描かれた。普段の葛葉紘汰(佐野岳)は、ザック(松田岳)と一緒にインベス退治に精出していた。呉島光実(高杉真宙)も加勢してはくれるが、協力してくれた序でに葛葉紘汰に文句を云っては葛葉紘汰を追い詰めていた。無論それを狙っている。呉島光実は葛葉紘汰を追い詰めて意欲を挫き、行動力を奪いたいのだ。責められた葛葉紘汰は、呉島光実に悪意があるとは疑おうともせず、むしろ自分自身ばかりを責めて、悩みながら、行き付けの阪東清治郎(弓削智久)経営のフルーツパフェの店「ドルーパーズ」に通っていた。
もう一つの葛葉紘汰の日常は、ヘルヘイムの森に赴いて、オーバーロードを探し求めること。今回はその只中に駆紋戒斗(小林豊)と遭遇し、久し振りに語り合った。葛葉紘汰がオーバーロードと話し合って仲間になって協力を得て、世界の破滅を阻止したいと考えているのに対し、駆紋戒斗は、オーバーロードと闘って相手の力を見極めながら、己に力を得て、その力で相手を圧倒することで状況を変えたいと考えているらしい。
ともかくも、葛葉紘汰の日常を見れば、物語は既に新たな段階に入っているのは自明のことで、インベスゲームは既になく、ビートライダーズの抗争はどこにもない。葛葉紘汰はザックに励まされ、駆紋戒斗と語り合っているが、反面、呉島光実には叩かれている。高司舞(志田友美)も、かつては抗争していた「チーム」の枠を超えて、本当にダンスを愛する女子たちと一緒にダンスを楽しみ始めている。
変化は漸く一般の沢芽市民の知るところともなりつつあるようだ。ビートライダーズがインベスを使って悪事を働いているわけではなく、むしろビートライダーズのリーダーだったアーマードライダーがインベスを退治して人々を救出してくれているという事実が、口コミで広まりつつある。ビートライダーズの抗争が既にないことも、知られるようになってきている。
こうした中で完全に目的を失ったのが城乃内秀保(松田凌)。彼が凰蓮・ピエール・アルフォンゾ(吉田メタル)の弟子として洋菓子店「シャルモン」で使役されているのは、もともとは、盟友だった初瀬亮二(白又敦)が力を失ったのを受けて、葛葉紘汰や駆紋戒斗に対抗し得る立場に身を置くための策でしかなかった。だが、今やインベスゲームはなく、敵は今や敵ではなく、味方も必ずしも味方ではない。「シャルモン」で働き続けているのは何のためであるのか?と考え直し始めていた。
今回の話は、城乃内秀保と凰蓮・ピエール・アルフォンゾが、アーマードライダーであることの意味を見詰め直そうとする話で、ゆえに物語の本題から外れた番外編ではあったわけだが、興味深かったのは、城乃内秀保が今なお初瀬亮二の末路を知らないまま、懐かしんでいること、凰蓮・ピエール・アルフォンゾがビートライダーズ抗争の終焉を知らず、ヘルヘイムの森のことも何も知らなかったことが判明したところだろう。両名は物語の流れから完全に外れていたのだ。
他方、私利私欲のためにユグドラシルに寄生する「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)、湊耀子(佃井皆美)、シド(浪岡一喜)の三人は、己等の悪事を挫きかねない謎の人物、DJサガラ(山口智充)の存在に怯え、その素性について調査をしていたが、調べれば調べる程に謎は深まるばかりであるらしい。そこへDJサガラ本人が出現して、戦極凌馬に対し、何を狙って暗躍しているのかを問い質した。その過程でDJサガラは、戦極凌馬の語る「仮説」を補う形で、ヘルヘイムの世界が実のところはどのような構図をなしているのかを、簡潔に語ってみせた。DJサガラが今まで葛葉紘汰に加担してきたのは、葛葉紘汰が不利な状況に立たされているのを、一人の「観客」として不満に感じたからである…とも述べたが、無論これは事実とは少々違う。DJサガラは、葛葉紘汰が「始まりの女」(志田友美)に選ばれた人物であることを知っている。だから支援して不利な状況を是正しながら、その「未来」を見届けようとしている。DJサガラが見届けるに値する「未来」を戦極凌馬、湊耀子、シドの三人に認めるとは思えない。