仮面ライダー鎧武第二十六話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第二十六話「バロンのゲネシス変身!」。
鎧武=葛葉紘汰(佐野岳)が撃たれた。狙撃したのは龍玄=呉島光実(高杉真宙)。ヘルヘイムの森で葛葉紘汰と駆紋戒斗(小林豊)が喧嘩していたとき、ゲネシス型バロンに対抗すべく葛葉紘汰もカチドキアームズに変身し直そうとしたところを、変身の合間の最も無防備な瞬間を狙って背後から撃ったのだ。卑怯な攻撃だが、この成功に呉島光実は誇らしげでさえあった。もはや悪役でしかない。
呉島光実がこのような卑怯な行動に出る前提として、予て葛葉紘汰に対して彼の抱いていた敵意の深まりを見なければならない。権力欲と策略に溺れ始めた呉島光実は、かつて敬愛していたはずの葛葉紘汰を今は思いのままに操縦したいと考えているが、現実には思い通りに操縦できた例がない。それどころか呉島光実にとっては望ましくない方向へ葛葉紘汰は走り続けている。呉島光実は全世界の人間の生殺与奪の決定権を掌握できることになるのかもしれないユグドラシルのアーク計画に夢を見て、その実現に加担しているが、もちろん葛葉紘汰はそんな冷酷で傲慢な計画を肯定するはずもなく、反対の声を上げ、邪魔をしながら、もっと良い打開策はないかを探し求めた末に、ヘルヘイムの支配者であるオーバーロードに可能性を見出している。呉島光実にはそれが気に入らない。だから葛葉紘汰の戦意を喪失させるため事有る毎に罵倒し続けてきた。
そうした中で、葛葉紘汰は、高司舞(志田友美)から、隠し事をしているのではないか?と詰問され、ついに隠し切れなくなって全てを明かした。角居裕也(崎本大海)の末路のこと、ヘルヘイムの森の侵食のこと、ユグドラシルのアーク計画のことを。唯一隠し通したのは、インベスと化した角居裕也を倒したのが高司舞を守るためだったという一点だった。葛葉紘汰が高司舞と一緒に初めてヘルヘイムの森へ行ったとき、白虎インベスから襲撃され、彼は高司舞を守るため、角居裕也が落として消えた戦極ドライバーを咄嗟に用いて、初めて鎧武に変身し、白虎インベスを倒した。角居裕也の最期だった。真相を明かせば高司舞は己を責めるに相違ない。呉島光実からもそう云われていた。だから葛葉紘汰は真相を隠してきたわけで、ここにおいてもその一点だけは秘密にしていた。これが今後にどのような影響を及ぼすかは今は定かではないが、一点を除いて明かされた真相に、高司舞は衝撃を受けながらもむしろ葛葉紘汰を慰めなければならないと感じた。一人で人知れず苦しんできた葛葉紘汰を抱き締めた。
高司舞に片想いを抱く呉島光実がこの場面を目撃していたなら発狂したかもしれないが、幸い、目撃されたなかったようだ。
とはいえ、真実は細部に宿る。葛葉紘汰は行き付けのフルーツパフェの店「ドルーパーズ」で、店長の阪東清治郎(弓削智久)から、何か良い出来事でもあったのか?と尋ねられる程に、いつになく明るい顔をしていたらしい。店員のイヨ(那月結衣)から気持ち悪いと云われてしまったのも、いつになく幸福な顔をしていたからだろう。そもそも、この日の葛葉紘汰は今までの何時までも子供のような服装から一転して、年齢に相応しく落ち着いた大人の服装を着ていたのだ。そこだけ見ても、何か大きな心身の変化があったと想像させるに足るというものではないか。
葛葉紘汰に対する高司舞の態度も変わったと見るべきだろう。今までの隠し事をしていた葛葉紘汰は、高司舞にとっては何を考えているのか解らない状態にあったはずだが、そもそも葛葉紘汰が何を考えているのかを高司舞が知りたいと思っていたのは葛葉紘汰の全てを知りたいと思っていたからこそではないのか。そして今、葛葉紘汰は隠し事を(一点を除いて)全て明かしてくれた。葛葉紘汰が何を思い、何に苦しんできたかを知って、今や高司舞は葛葉紘汰を守り、助けたいと思うようになったろう。そのことの表れの一つが、ヘルヘイムの森の真実とユグドラシルの残酷な計画の存在を沢芽市民に訴えるための、高司舞による演説会の開催だったし、もう一つが、その只中に発生した騒動のあとの、葛葉紘汰を罵倒した呉島光実に対する高司舞の制裁だった。
インベスを呼び出して騒動を引き起こし、演説会を台無しにして、真相の暴露を阻止した呉島光実の行為は、ビートライダーズに対する世間の疑惑と敵視を再燃させたに違いなく、高司舞を再び落ち込ませ、悲しませた。しかし犯人が呉島光実であることを誰も知らない。そこで彼は、皆を助けるため急ぎ駆け付け葛葉紘汰が収束のあとに逸早く高司舞を助け起こそうとしたところに掴みかかり、全責任を押し付けて罵倒し、殴り飛ばした。高司舞と一緒に行動してきたザック(松田岳)とペコ(百瀬朔)が呉島光実の暴力に驚いていたのは、それが単に唐突だったからだけではなく、何の必然性も説得力もなかったからだろう。
ここにおいて高司舞は立ち上がり、葛葉紘汰を庇い、呉島光実の顔を打ちのめした。この制裁は葛葉紘汰を守りたいという思いの表れに他ならない。このとき呉島光実は葛葉紘汰の存在こそが高司舞への己の愛を妨げる最強の敵であると認識し、葛葉紘汰を抹殺したいと思うに至った。
だが、これは実に愚か者の思考だ。なぜなら高司舞が愛しているのは葛葉紘汰であって呉島光実ではないからだ。葛葉紘汰を抹殺したところで、高司舞の愛が呉島光実に向かうわけではない。それどころか、駆紋戒斗へ向かうようになる可能性もあることを視聴者だけは知っている。そもそも高司舞が鎮守の森の高司神社を潰したユグドラシルを憎んでいることを、呉島光実は知らないのだろうか。彼がユグドラシルの力で高司舞を守ろうとしたところで、高司舞がそれを喜んで受け入れるとは思えない。
ところで、駆紋戒斗に対する湊耀子(佃井皆美)の態度の変化をどう見るべきか。本当に駆紋戒斗に可能性を見出したのか、それとも好意を抱き始めただけか。何れにせよ湊耀子は、私利私欲のためにユグドラシルに寄生する仲間である「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)が駆紋戒斗には伸び代がなさそうであると見て見捨てようとしていたとき即座に異論を唱え、オーバーロードとの接触を続けさせるべきことを主張した。
この談合に呉島光実が便乗し、オーバーロード探索のための道具として葛葉紘汰を利用することを提案した。葛葉紘汰を利用するため彼が芝居を打つ代わりに、アーマードライダーマリカ=湊耀子に葛葉紘汰を倒させるという提案だったようだ。しかるにマリカはカチドキアームズの鎧武に大いに苦戦し、ついには敗北した。本気で苦戦していたのは確かだが、本気の敗北だったのかは定かではない。想像するに、湊耀子は呉島光実本人に葛葉紘汰を倒させてみたかったのではないか。実際、かつては自ら手を汚そうとはしなかった呉島光実が今回はマリカの敗北を知るや直ぐに自ら進んで葛葉紘汰を倒そうと動き始めたのを見て、湊耀子は変化に驚いていたのだ。
呉島光実の変化を促したのは、案外、兄の呉島貴虎(久保田悠来)が発した「覚悟」という語ではないだろうか。ユグドラシルの社内で、上司からアーク計画の進捗について説明を求められ、一層の推進を促されたあと、罪の意識で落ち込んで、疲れた顔をしていた兄は、話しかけてきた弟に、「ノブレス・オブリージュ」を語り、人の上に立つ者には相応の「覚悟」が求められるのであると告げた。「覚悟」を求めたわけだが、弟はその意味を理解しなかったようだ。怜悧ではあるが、馬鹿であるのかもしれない。
今回の話は前回の話と、時間において重なっているようだ。次回の話で二つの時間が一致するらしい。葛葉紘汰がどのように生き残り、駆紋戒斗がどのように反応し、呉島貴虎がどのように決意し、凰蓮・ピエール・アルフォンゾ(吉田メタル)がどのような目に遭うのか。次回の話の重要性が予想される。