仮面ライダー鎧武第三十一話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第三十一話「禁断の果実のゆくえ」。
ヘルヘイムの森の谷底に突き落とされた呉島貴虎(久保田悠来)と、彼を救助してくれた白い身体を持つオーバーロードの王、ロシュオ(声:中田譲治)との間の会話は続いていた。「知恵の実」(「禁断の果実」)を手に入れた者は世界を意のままに作り替える力を得ると知った呉島貴虎は、それさえあればヘルヘイムの森の浸食から世界を救い、世界の生態系を保全できると喜んだが、ロシュオは人類が知恵の実を獲得することはないと断言した。なぜか?と問いかける呉島貴虎に対して回答したのは、意外にも、突然そこへ現れたDJサガラ(山口智充)だった。
知恵の実は一つの世界の一つの種族に一つだけ与えられるべきであり、人類のために生まれた知恵の実は人類のためのものであるのに、かつて既に知恵の実を獲得した(人類ならぬ)フェムシンム類の長者、ロシュオは、不当にも、人類に与えられるべき知恵の実をも横取りしようとしていた。DJサガラはそのことを見破り、批判したのだ。DJサガラが見抜いたように、ロシュオは一人の大切な女をよみがえらせるために知恵の実の力を使いたいと考えていた。ヘルヘイムの森の洞窟の奥にある彼の住処には彼の玉座があり、傍らには豪奢な石棺が置かれている。その大切な女はそこに永眠しているらしい。
かつてヘルヘイムの森との戦いに勝ったロシュオは何者からか知恵の実を受け取ったようだが、知恵の実を授けた何者かがその大切な女であるのだろうか。真相は今後の展開で明らかにされることだろう。
ともかくも、DJサガラからの抗議に応じてロシュオは黄金に輝く林檎のような形の知恵の実の中から一部を取り出して、ロックシードにも似た何かを生じさせた。DJサガラによると、それは鍵であるらしい。ロックシードは錠前で、知恵の実の一部は鍵。その鍵を受け取ったDJサガラは納得してその場から消えた。
DJサガラは鍵を誰に渡すのだろうか。もちろん「希望の担い手」に他ならない。ロシュオが人類のための知恵の実を人類に渡さず横取りしようとしていたのは、どうせ人類に渡してもフェムシンム類と同じように同胞で殺しあって滅ぼし合うだけだろうと予想したからだった。何の希望もない結末しか導き出せないのであれば、折角の知恵の実はもっと有意義な目的に使用されるべきであり、それは己の最愛の人を復活させることに他ならない…というのがロシュオの考えだった。だが、これに対してDJサガラは「人類には、まだ希望の担い手が残っているぜ」と陽気に云い返した。希望の担い手が誰であるのかを、視聴者の誰もが予想できているに相違ない。
他方、第二十九話においてヘルヘイムの森の上空に突然発生したクラックから人類の世界へ飛び出した赤いオーバーロード、デエムシュ(声:杉田智和)に対して、デエムシュと戦っていた四人のアーマードライダーの間には二つの反応があった。鎧武=葛葉紘汰(佐野岳)とバロン=駆紋戒斗(小林豊)はもちろん沢芽市の人々を守るためデエムシュのあとを追ったが、常に私利私欲に走る龍玄=呉島光実(高杉真宙)とシグルド=シド(浪岡一喜)は、邪魔者がいなくなった隙に禁断の果実を探し出したいと考え、森にそのまま留まったのだ。
後者には恐ろしい結末が待ち構えていた。
両名の前に現れた緑色のオーバーロード、レデュエ(声:津田健次郎)が両名に禁断の果実の在り処を教えたいと提案して、ロシュオの住処へ行かせようとした。一刻も早く新たな力を得たいと思っていたシドは見事に騙されてロシュオに挑み、ロシュオの強大な力の前に抵抗することさえも許されないまま、岩山の狭間に埋められて消えた。しかも、ロシュオの住処に居候していた呉島貴虎の眼前で。
呉島光実は幸い、レデュエの提案が罠であると見破ってシドには同行しなかったことから無事だった。同時に、兄がロシュオの許に健在であることを未だ知るには至らなかった。面白いことに、レデュエは己の罠を見破った呉島光実の知略に興味を抱いたようにも見えた。白いオーバーロードが白いアーマードライダーに似て、赤いオーバーロードが赤いアーマードライダーに似ているとすれば、緑色のオーバーロードは緑色のアーマードライダーに似たところがあるのかもしれない。
前者にも今後の展開を左右し得る大きなドラマがあった。
デエムシュから沢芽市の人々を守るため、鎧武=葛葉紘汰とバロン=駆紋戒斗が共闘していたとき、「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)率いるユグドラシルの警備隊、通称「黒影トルーパー」は、人々を守るよりはデエムシュを捕獲することを優先しようとしたばかりか、作戦の第一段階として先ずはデエムシュではなくデエムシュ捕獲の邪魔者になりかねない鎧武をこそ攻撃し、打倒しようとした。共闘できるはずの者をこそ一番の敵と目する戦極凌馬発案のこの無茶な作戦には、本来の攻撃の対象であるはずのデエムシュ自身が最も驚かざるを得なかったようだが、恐らくは現場の指揮官をつとめる湊耀子(佃井皆美)も必ずしも納得してはいなかったのではないだろうか。予て湊耀子からも一目置かれてきた駆紋戒斗は今回も葛葉紘汰を守るために戦い、ユグドラシルの大軍から集中攻撃を受けて倒れた葛葉紘汰を素早く救出してその場を去った。
葛葉紘汰を背負った駆紋戒斗が向かった先は、「チーム鎧武」の集会所。そこには高司舞(志田友美)とザック(松田岳)、ペコ(百瀬朔)がいた。気を失っていた葛葉紘汰はそこで目を覚まして駆紋戒斗に詰問した。力を求め続ける駆紋戒斗の目標は、強い者は弱い者を意の如く消し去り得る資格を有するとまで豪語したデエムシュのような境地であるのか?と。駆紋戒斗はデエムシュの言を正論であると認め、葛葉紘汰はそれに反発して怒ったが、傷の深さのゆえに再び気を失い、駆紋戒斗の真意を知ることはなかった。駆紋戒斗は、強い者は弱い者を気ままに傷付け得るからこそ、弱い者はそれに抵抗し得るためにも強くならなければならないと信じているように見受けるし、弱い者を気ままに傷付け得る者をも圧倒する力を得た者こそが最も強い者であると信じているようにも思われる。ザックは駆紋戒斗の真意を解したのだろう。駆紋戒斗はザックとともに再び戦場へ向かい、高司舞とペコには葛葉紘汰の介抱を任せた。
戦場では、ユグドラシルの黒影トルーパーの大軍勢が殆ど壊滅しつつあった。当然だろう。敵の戦力を見極めてもいない内に、決して負けるわけにはゆかない戦闘において、何等の勝算もないまま、味方を排除することに全力を注ぐという無茶な作戦を決行したのだ。そんなことでどうしてデエムシュを捕獲できると思い込めていたのか。戦極凌馬は口程にもなく戦略も判断力も欠いた無能の大将だったと云わざるを得ない。もともと必ずしも従順であるわけでもなさそうだった湊耀子が戦極凌馬から離反したとしても不自然ではない。
もう一つ、ユグドラシルに関して面白かったのは、沢芽市長がユグドラシルに抗議の電話をかけてきたこと。沢芽市がクラックの頻発する地域であり、ヘルヘイムの森の浸食やインベスの侵略に見舞われる危険な場所であることについて、ユグドラシルは沢芽市の市長をはじめ主な幹部には説明していたらしい。そのような説明を受けた場合、政府に支援と指示を求め、県を通じて警察や自衛隊に救援を要請し、あるいは市民に避難を呼びかけるのが市長と市議会の務めであると思われるが、どうやらユグドラシルがそれを止めていたらしい。ユグドラシルが全力で危機を管理し、隠蔽してみせるとまで約束していたらしい。要するに、アーク計画に関する密約があるということだろう。ところが、実際には今までの間に、沢芽市内には謎の植物が浸食し、謎の怪物が出現し、行方不明者や謎の病人が大量に発生してきた。そして今や、今まで見たこともない程に強力で凶暴な赤い怪物までもが出てきて、人々を襲い、街を壊し始めた。ついには警察が出動せざるを得なくなったが、警察では全く太刀打ちできなかった。密約が成立していない。市長が怒るのは当然だが、そもそも、恐ろしい事実を知らされてもなお、一民間企業の計画を信頼し切って何の防衛策も講じようとはしなかった市長と市議会の無責任な姿勢も批判されて然るべきではないか。小さな政府を標榜する構造改革主義者の市長であるのか知らないが、政治の最も大切な役割を捨て去った者が何を云おうと説得力はない。