仮面ライダー鎧武第三十八話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第三十八話「プロフェッサーの帰還」。
主人公の葛葉紘汰(佐野岳)はあらゆる妨害を跳ね除けて漸く現場へ駆け付けた。到着し得たとき、呉島貴虎(久保田悠来)と呉島光実(高杉真宙)の姿はなかったが、破損したアーマードライダー斬月のドライバーの残骸がわずかに転がっていた事実は、兄が弟によって殺害されたことを物語っていた。遺体は海に沈んだままであるらしい。呉島貴虎の死と、呉島光実の罪。この二つの事実に落ち込んでいた葛葉紘汰の前に現れたのは、「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)だった。
戦極凌馬は、ユグドラシルタワーへの侵入路を密かに拵えておいたことを明かし、鎧武の基地に集結していた旧ビートライダーズとアーマードライダーの皆にそこからの突入を提案したが、この提案を受け入れるか否かをめぐっては意見の対立が生じた。この提案の他に打開策はないという認識で葛葉紘汰と駆紋戒斗(小林豊)が珍しく一致したのに対し、湊耀子(佃井皆美)やブラーボ=凰蓮・ピエール・アルフォンゾ(吉田メタル)、さらにはペコ(百瀬朔)までもが、これまで常に信頼できない人物であり続けた人物を今さら信頼してしまうことの危険性を指摘したのだ。
呉島光実の凶行、暴走と時を同じくして到来した戦極凌馬の「帰還」という事態は、どうやら、このところ対立することの多かった葛葉紘汰と駆紋戒斗を、一度は共闘させる方向へ作用しつつあるらしい。
他方、ついに実兄を抹殺した呉島光実は、ヘルヘイムの森から来た緑色のオーバーロード、レデュエ(声:津田健次郎)の見るところ、完全に「壊れた」。しかし壊れたことで完全に強くなった。駆紋戒斗の見るところ、実兄を殺害したことで呉島光実の内面には今や歯止めがなくなって、欲望のみに猛進する「覚悟」が決まってしまい、そのことが力を増強されているらしい。今までは抑制されていた力が、凶行によって完全に解放されたということだろうか。なるほど、葛葉紘汰が今なお力を制御し抑制している状況にあるのかもしれないと見るなら、納得できる説明だろう。
呉島光実は今なお呉島貴虎の記憶に悩まされ続けてはいるが、多分、これは今に始まったことではないのだろう。彼は今まで常に、偉大な兄の言動、偉大な兄の存在を気にして生きてきたに相違ない。兄が仲間に殺害されたのを目の当たりにしたことで一度は解放感を味わい得たのかもしれないが、亡くなったかと見えていた兄が実は生きていたことで、兄への畏れが増長された面もあったろうか。従って今度こそは、自らの手で、確実に兄を抹殺しなければならないと考えていたのかもしれない。兄を抹殺し得ても畏敬の記憶は容易には消えなかったが、それでも、畏敬の対象を自らの手で殺害したことの意味は大きかった。決して犯してはならない罪を犯したことで、もはや犯し得ないことなんか何もなくなったからだ。彼の最大の欲望の対象である高司舞(志田友美)を手中に収めるために、脅迫することも、誘拐することも、強姦することも、殺害することさえも、彼はもはや躊躇しないことだろう。
実際、彼は早速、高司舞を手中に収めるべく脅迫した。彼は、己を止めようとしたペコを「屑!」と呼び、インベスに襲わせて人質にして、ペコを開放する交換条件として己の云いなりになることを高司舞に求めた。これは愛する人への態度ではあり得ないが、欲望を完全に解放し切った「壊れた」者の態度ではある。