仮面ライダー鎧武第三十八話について補遺

昨日放送の「仮面ライダー鎧武」第三十八話「プロフェッサーの帰還」について補遺。
昨日の話では、ヘルヘイムの森の奥の玉座にある白色のオーバーロードの王、ロシュオ(声:中田譲治)と、臣下として振る舞いながらも裏では新たな王位に即くことを狙ってもいる緑色のオーバーロード、レデュエ(声:津田健次郎)との間に重要な会話があった。
レデュエによる地球への侵略が順調に進行している反面、かの強暴な赤いオーバーロード、デエムシュ(声:杉田智和)をはじめ、フェムシンムの勇将が次々倒され、フェムシン類が滅亡に近付きつつあることをフェムシンムの王ロシュオは嘆いていたが、これに対してレデュエは、デエムシュ等を倒した鎧武=葛葉紘汰(佐野岳)の強さが「黄金の果実」に由来するのは明白であり、フェムシンム類を滅亡させようとしているのは、「黄金の果実」を半ば葛葉紘汰に与えてしまったロシュオ自身ではないのか?と詰問した。
ロシュオは、地球の人類は敵ではないこと、その行方には二つの道があることを語った。人類が自ら滅亡へ向かおうとする愚かな連中であるなら早めに滅亡させるしかないこと、しかるに、仮に人類の中に唯一人でも未来を切り開こうという意志を持つ者があるなら、考えを改めなければならないことを語ったのだ。
レデュエの傍らに立って一緒にロシュオの言を聴いていた呉島光実(高杉真宙)は、オーバーロードの中にもこのように考える者がいたという事実に驚いていたが、一体、そこに何を見出したのだろうか。ロシュオが己を選んでくれるとでも甘く期待したのか、それともロシュオこそは己に最も敵対し得る最も厄介な敵であると見定めたのか。
冷静に考えるなら、ロシュオが呉島光実を認めるはずはない。なぜならロシュオはユグドラシルのアーク計画を、人類の七分の六を削減することで自滅へ突き進んでゆく愚かな所業であると見抜いて、それで人類を軽蔑していたのだからだ。それでもなお、アーク計画を推進していた呉島貴虎(久保田悠来)には同胞を削減することへの迷いがあって、ゆえに同情の余地もあったが、壊れ切った呉島光実には今や何の躊躇もなく、むしろ嬉々として人類の削減を推進しようとしている。「ミッチの方舟」計画に憑り着かれた呉島光実こそは、ロシュオの眼には最低の、最悪の、最も軽蔑せざるを得ない愚か者と見えることだろう。
もちろんデエムシュもレデュエも、その点では呉島光実と同じであり、ゆえにロシュオがフェムシンム類の滅亡を密かに望み、着々と仕掛けているというのは充分に考えられる。そしてロシュオが、己の後を託し得る者として、葛葉紘汰を少なくとも半ばは認めているというのも充分に考えられる。なぜなら今の葛葉紘汰には私利私欲がないからだ。湊耀子(佃井皆美)も、駆紋戒斗(小林豊)も、世界を救出したあと世界をどのように作りたいかについて葛葉紘汰が何もヴィジョンを持っていないことを批判しているが、どうしてそんなヴィジョンが必要であると考えるのだろうか。一人の人間が世界を新たに設計し改造すべきであるという発想こそ、危険なテロリストの思想であり、それでは「アーク計画」と何も変わらない。