仮面ライダー鎧武第四十二話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第四十二話「光実!最後の変身!」。
鎧武=葛葉紘汰(佐野岳)は前回、フェムシンム類のオーバーロードを全滅させた。そして今回、姉の葛葉晶(泉里香)をはじめ、これまでオーバーロードに囚われていた仲間たち皆と無事の再会を果たした。しかるに事態は解決してはいない。ヘルヘイムの森による浸食は止んだわけではなく、インベスの群による侵略は続いている。事態を解決し得るのはオーバーロードの力のみであると予測されている中で、その力に最も近付いているのは、多分、唯一、既に「黄金の果実」の一欠片を取り込んで一部オーバーロード化した葛葉紘汰だけであるに相違ないことを、葛葉紘汰自身が自覚している。
そうした中で、ここ暫くの間は常に彼と共闘し続けてきた駆紋戒斗(小林豊)が再び彼から離れようとしている。
無理もない。もともと葛葉紘汰が貧しいながらも姉と二人で、住み慣れた町で楽しく生活していたのとは異なり、駆紋戒斗は幼少時の幸福な生活を大企業ユグドラシルによって粉砕されて以降、常に社会を呪い続けてきた。葛葉紘汰が居場所を取り戻し、守ろうとしてきたのに対し、駆紋戒斗は既に居場所を持たず、ゆえに居場所を創成しようとしてきた。居場所を守るためには戦力があれば良いかもしれないが、居場所を創成するためには戦力だけでは足りない。創造する力がなければならない。それは神の力に他ならない。しかるに神の力に最も近付いているのは葛葉紘汰であることを、前回、駆紋戒斗は目の当たりにした。しかも彼は腕の傷口が徐々にヘルヘイムの植物に浸食されつつある事実にも悩まされている。このままではオーバーロードになるどころか、単なるインベスに転落してしまうかもしれない。葛葉紘汰は神になり、駆紋戒斗は獣になるのかもしれないのだ。神になりたかった駆紋戒斗が、戦友に嫉妬するのは無理もない。
かつて駆紋戒斗の子分であり友でもあったザック(松田岳)は、城乃内秀保(松田凌)と凰蓮・ピエール・アルフォンゾ(吉田メタル)とともに、人々を守るため、葛葉紘汰と共闘し続けているが、もともと力ある者を見守ることにしか興味がなかったと見受ける湊耀子(佃井皆美)だけは、力を求めることにおいて強烈に貪欲な駆紋戒斗に付き従うことにした。ここにも、居場所を持つ者と持たない者との間の分岐がある。
このような対立点において最も奇妙な選択をしてきたのが呉島光実(高杉真宙)に他ならない。
彼はもともと富裕で力ある家に生まれ育ちながらも、偉大な兄である呉島貴虎(久保田悠来)への反発から家に対して居心地の悪さを感じ、居場所を求めて街の不良連中に交じっていった先に、高司舞(志田友美)や葛葉紘汰を見出し、「チーム鎧武」という集団を居場所と見定めた。しかるに事態が急変し、居場所を見失いそうになっていたとき、ユグドラシルにも居場所を見付け、さらには権力闘争をこそ居場所と思った。それに応じて「チーム鎧武」に居心地の悪さを感じ始めたが、そこにおける居場所を高司舞という個人に求めることで、己の本心を誤魔化し始めた。葛葉紘汰に反発しつつ、葛葉紘汰と高司舞との間に対立関係を想定することで己の言動を正当化しようとした。実際には葛葉紘汰と高司舞は同じ方向を見ていて、ゆえに葛葉紘汰に反発するのであれば高司舞にも反発するしかないはずであるにもかかわらず、この現実から目を背けてきた。無茶な立場だが、権力によって正当化しようとしていた。やがて権力闘争に敗れ、何もかも失おうとしている現在、呉島光実にとって縋り付く場所は高司舞という個人の他にはなくなった。
自ら居場所を捨てておきながら、居場所の喪失には耐え難く、もはや居場所ではあり得なくなっているにもかかわらず勝手に居場所として想定している他者に、まとわり付こうとしている。
不幸にも、この奇妙な立場は「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)に利用された。高司舞の身体に蔵される「黄金の果実」は必ずや葛葉紘汰によって狙われ、奪われ、利用されるに相違ない!と力説してみせることで戦極凌馬は、既に正気を失っている呉島光実を挑発し、かつて自ら開発した最強の危険な武器「ヨモツヘグリアームズ」を授けて葛葉紘汰との決戦へ向かわせた。この、いかにも不吉な名称を有する武器は、使用した者の生命力を戦闘力へ転換するらしく、使用した者から生命力を失わせるらしい。戦極凌馬は呉島光実に葛葉紘汰を討たせ、同時に呉島光実を死なせようとしているのだろう。そうすれば「黄金の果実」を手中に収め易くなると見込んでいるに違いない。
呉島光実を追い詰め、戦極凌馬に悪事を思い付かせたのはDJサガラ(山口智充)の告白だった。驚くべきことにDJサガラこそはヘルヘイムの森そのものであり、全ての発端だった。
世界を浸食して滅ぼしながら「黄金の果実」を発生させて、それを「始まりの女」に授ける。「始まりの女」は「終わりの女」でもあり、世界の王になるべき唯一人の者を選んで「黄金の果実」を授けることで新しい世界を始めさせ、旧い世界を終わらせる。DJサガラは、「始まりの女」が誰を新しい世界の王として選択するのか、選ばれた王がどのような世界を選択するのかを見守ろうとしているのだ。
DJサガラの話を聴いて、戦極凌馬は「黄金の果実」を手にするためには葛葉紘汰と呉島光実を同時に抹殺するしかないと考えたようだが、他方、呉島光実は葛葉紘汰が高司舞に選ばれるのを恐れたのではないかと見受ける。戦極凌馬は呉島光実を挑発するため、葛葉紘汰が高司舞を利用する恐れがあると力説したが、多分、流石の呉島光実もそれを本気で信じ込んだわけではないだろう。なぜなら彼の精神を悩ませ続けている胸中の微かな良心としての、呉島貴虎の亡霊は、彼に対して彼の無価値を強調したからだ。換言すれば、呉島光実は己が高司舞に選んでもらえるはずがないことを自覚できているのだ。自覚していてもなお受け入れることができない。だから彼は、危険な武器を使用して、たとえ己の身を自ら滅ぼすことになろうとも、葛葉紘汰が選ばれる事態だけは避けたいと願っているということではないのだろうか。
ところで、以上のように葛葉紘汰、駆紋戒斗、呉島光実がそれぞれ悲壮な決意をして物語を大きく動かそうとしていた間、ペコ(百瀬朔)とチャッキー(香音)も小さな冒険を始めていた。呉島光実と戦極凌馬によって病院の廃墟の一室に監禁されたが、そこからの脱走を試み始めていた。脱走は成功するのか。成功した暁にはどこへ向かい、どのように行動してどのような結果を生じるのか。ここも見守るに値しよう。