きょうは会社休みます第二話

水曜ドラマ「きょうは会社休みます。」第二話。
先週の第一話では、青石花笑(綾瀬はるか)に対する田之倉悠斗(福士蒼汰)の衝撃の「壁ドン」があって大いに視聴者の気分を盛り上げたが(インターネット上の反響も凄まじかった模様)、今週の第二話では一転、青石花笑の被害妄想の悪夢における田之倉悠斗の変貌が面白かった。
青石花笑の職場である帝江物産と、朝尾侑(玉木宏)がCEOを務めるサフィラストレーディングとが親睦を深めるために合同で挙行した華やかな宴会。これに馴染めないものを感じていた青石花笑は、早めに抜け出し、これには参加していなかった田之倉悠斗からの誘いに応じて一緒にラーメン店に行ったが、誘った側である田之倉悠斗が財布を忘れて来ていたことから、却って奢ることになった。そのことを特に気にしていたわけではなかったばかりか、次のデイトのときこそ御馳走したいとの田之倉悠斗の約束に幸福感を抱いてさえもいたのに、帰宅後に家族と一緒に見ていたテレヴィで詐欺事件が報じられていたのを見た途端、まさか騙されていたのではないかとの疑念を抱き始め、同じ夜、その疑念を悪夢の中で膨らませた。
現実の田之倉悠斗が愛をこめて優しく発したのと同じ言葉を、夢の中では悪意をこめて発していたのが面白かったが、青石花笑から巻き上げる金額が次第に大きくなるだけではなく、金を巻き上げる口調も表情も服装までも次第に真の悪党に変貌していったところが面白さを増した。多額の金を得るため遂に犯罪に手を染めようとしていた青石花笑は、朝尾侑や帝江物産デザート原料課長の立花貴昭(吹越満)に次々に嘲笑されたが、朝尾侑からの厳しい罵倒にも屈することなく悪の道へ走ろうとしていたその姿は、一面では一途ではあって、笑えるだけではなく哀れでもあった。
現実には、次のデイトのときには本当に田之倉悠斗が奢ってくれた。彼の大学の先輩が営んでいる小さな洒落た料理店で、美味ではあっても決して高くはないらしい。店主の武士沢吉洋(田口浩正)は、田之倉悠斗が女性と一緒に来店するのは稀であると述べていた上、彼が女性のために奢るのは初めてであるとまで述べていたが、青石花笑はそこには気付いていなかったろうか。さり気なく重要な事実を明かしていたように思われる。詐欺の疑念を抱いていたから、それどころではなかったろうか。
真に最悪だったのは店を出る直前のこと。変な若い女が入ってきて、田之倉悠斗と親しく会話を始めた。恋人ではないように思われるが、極めて親しく、流行の音楽等について話題を共有してもいて、そのことが青石花笑に疎外感を抱かせた。三歳も差があれば話題を共有し得なくなるらしい…とは青石花笑が気にしていたところで、九歳もの差があることの重みを実感させる事態が発生した中で青石花笑が痛感させられた敗北感のようなものは、少なくない視聴者にとっても、かなり生々しく描写されていたのではないだろうか。田之倉悠斗と別れて帰宅する途上のバスの中、今日のデイトへの感謝の意をこめた携帯電話メイルを送信しておいたにもかかわらず、帰宅後にも、何時まで待っても返信がなかったことから、あの若い女と田之倉悠斗は今なお一緒にいるのではないのか?楽しんでいるのではないのか?と不安になって、落ち着いていられなくなって、結局、一睡もできないまま朝を迎えてしまったのは、戯画風で笑わせるだけではなく共感をも誘う哀しみに満ちてもいた。
返信が来ないことで苦しんで、翌日、冷静になって、苦しんでいた自分自身を嫌悪して、この思い自体に終止符を打つこと、決別を決意したところも生々しいが、その夜、ようやくメイルに気付いてくれて返信をくれただけで嬉しくなって、幸福を感じて、全てを許してしまったところも極めて生々しい。心当たりのある人は決して少なくないのではないかと思われる。
前夜の苦悩から、翌日の告白への逆転の前には、サフィラストレーディングCEO執務室における朝尾侑からの「恋をするってそういうもんだよ」という助言があったが、この平凡な洞察が意外に心に突き刺さる。
このテレヴィドラマはコメディとして造られているが、恋心に惑って見苦しくなってしまうことの悲哀感に裏付けられていることで真に面白さが増している。
なお、大城壮(田口淳之介)は意外に優秀な人物であると思しい。青石花笑を魅力ある女性に変貌させつつあるその恋人の力に感心していたのは人柄の良さを表していて興味深かった。