福士蒼汰ドラマ恋仲第六話

福士蒼汰主演テレヴィドラマ。月九「恋仲」。第六話。
この物語の主要な登場人物数名の中で、まともに共感の対象になり得るのは主人公の三浦葵福士蒼汰)だけだろう。他の数名の連中は悉く理解し難い言動を見せている。三浦葵の職場の上司たちのような脇役集団は常識ある人々であるように見えるが、それは単に、物語の展開に殆ど何も影響を及ぼさない程の脇役でしかないからだろう。
芹沢あかり(本田翼)は、幼時から親しみ続け、いつしか恋情をさえ抱くようになっていた三浦葵との大切な約束を敢えて疎かにしてまでも、三浦葵との関係を五年間にわたり姑息な手段で妨害し続けてきた卑怯な蒼井翔太野村周平)に一言だけ告げるべく会いに行くことを優先した。何故であるのか。教員採用試験に合格したことを報告しておきたいのであれば、電話でも電子メールでも充分ではなかったろうか。何故わざわざ会いたかったのか。常識ある人間の判断とは思えない。
その結果、急な事件に巻き込まれて、結局、三浦葵との約束に遅れるどころか約束を破ることになったが、これも奇妙な事態であるとしか云いようがない。第一に、急病に倒れた少女のために、徹夜で付き合う道理がどこにあるのか。身寄りのない少女ではなく、むしろ家族の愛にも富にも恵まれた少女であり、付き添うべく付き添っていた人が他に何人もいたのではないのか。第二に、なぜ一言だけでも、三浦葵に連絡しておかなかったのか。病院内では携帯電話を使用できないのであるなら、病院内の公衆電話を使うべし。携帯電話を入れた荷物を病室内に置き忘れてきたのであるなら、病院の人に事情を説明して取ってきてもらうべし。どうにもならない事態ではない。
このように、芹沢あかり自身が実は三浦葵をあまりにも軽んじているか、さもなくば他人を思いやる優しさの欠片もない自己中心主義者であるか、何れにしても非情の非道の人であると云うほかない。しかし同時に、芹沢あかりをけしかけた奴がいることも責めておかなければならない。云うまでもなく三名の共通の旧友である金沢公平(太賀)に他ならない。
この人物に何か一点だけでも洞察ある部分があるとすれば、それは蒼井翔太のわずか一点だけの良心に気付いた点だけだろう。確かに、蒼井翔太は、芹沢あかりが三浦葵に宛てた手紙を、それを挟んでいた漫画「ワンピース」第五十一巻と一緒に盗んだあと、今日まで保存していた。証拠隠滅を図らなかった。蒼井翔太が悪事をなしながらも心のどこかで良心の呵責に苛まれてはいて、しかもそこから逃れようともせず丸ごと引き受けようとしてもいた可能性がある。実際、金沢公平はそう確信していた。
だが、別の可能性もある。蒼井翔太がとんでもなく真の悪人であり、三浦葵から芹沢あかりを巧く強奪し得たことを心から喜んでいて、罪の意識なんか微塵も感じるわけもなく、むしろこの戦果をいつまでも想起させてくれる戦利品として、否、むしろ記念碑として、「ワンピース」第五十一巻に挟まれた手紙を手元に常置して、毎日のように眺めていたという可能性が。なにしろ蒼井翔太は信じ難い悪事をなした人物である以上、その心も、悪の反対物であるよりは悪そのものである可能性の方が大きいのではないのか。しかるに金沢公平がそのような恐ろしい可能性を一瞬たりとも考えた気配はない。
金沢公平が愚かであると批判されるべき理由は、彼がどういうわけか蒼井翔太をどこまでも信頼しているばかりか心配し、応援していて、芹沢あかりに対しても同じように蒼井翔太を信頼させ、心配させようとしている点にある。何故そんなにも不公平であるのか。どうして三浦葵を心配し、応援しようとはしないのか。
金沢公平は、蒼井翔太こそが五年間にわたり芹沢あかりを支え続けて来た人であり、換言すれば芹沢あかりを最も理解し、愛してきた人であり、ゆえに芹沢あかりから最も信頼され、愛されて然るべき人であると断言した。だが、これは余りにも不公平な言い分ではないか。なぜなら当の五年間もの歳月を、三浦葵蒼井翔太によって奪われていたからだ。本来、芹沢あかりは三浦葵に支えて欲しかったはずであり、もちろん三浦葵も芹沢あかりを支えたかったに相違ないが、両名が再会するための手段、連絡を取るための手段は、蒼井翔太によって横領、強奪されていた。蒼井翔太が芹沢あかりを支え続ける機会を獲得した五年間は、三浦葵にとっては、蒼井翔太によって不当にも盗まれ、奪われたことで空白となってしまった五年間に他ならない。だからこそ三浦葵にとっても芹沢あかりにとっても、蒼井翔太の言動は許し難いのだ。
その辺の事実関係については金沢公平も一通り認識したはずであるのに、どういうわけか公平に見ることもできず、極めて不公平な仕方で蒼井翔太に肩入れをして三浦葵を苦しめている。
芹沢あかりの合格を祝うため、得意料理のカレーライスを拵え、立派なケーキをも調達して、準備万端、到着を待ち続けて、連絡しても連絡も取れないまま、夜を徹してしまった三浦葵の寂しさ、悲しさ、虚しさ、悔しさに、視聴者の皆が共感したに相違ない。それは同時に、芹沢あかりの非情、蒼井翔太の冷酷、残忍、そして誰よりも金沢公平の不公平に対する憤りを惹起せざるを得ない。この物語の中で一番の悪人は今や金沢公平に他ならないが、真の一番の悪人は、このような理不尽な物語を拵えても平然としていられるテレヴィドラマ制作者連中であるのかもしれない。