橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり二夜連続特別企画の後編

昨夜に続いて今宵、橋田寿賀子脚本によるテレヴィドラマ、二夜連続特別企画「橋田壽賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」の後編が放送された。
昨夜の前編では小島五月(泉ピン子)の流浪を通して小島家と岡倉家の両一族の各家庭を巡り、この大長編物語を構成する主要な人々が今どのような状態にあるのかを一挙に眺望してみせた。
小島五月の流浪は後編の前半までは続いたが、後半には、ついに居場所が見つかった。それは街を歩く中で偶々見かけた大流行の新興ラーメン店「頑固星」の皿洗いのアルバイトだった。初日には予想以上に厳しい仕事で苦戦を強いられ、若い店主の翔太(伊嵜充則)から怒鳴られていたが、あれは多分、かなり長らく「幸楽」の仕事から離れていた所為で直ぐには勘を取り戻せなかったからだろう。もう一つ、年齢を重ねたことで足腰が弱り、既に「幸楽」でも仕事を苦痛に感じることが少なくなかったという事情もあるが、それ以上に、暫く仕事から離れていたことが大きく作用したに相違ない。その意味で、ここで働くことは確かに「ジム」に通うことと同じだった。幸い、どうやら翌日以降には勘を取り戻し得たらしく、翔太や若い店員にも見事に馴染んでいた。とはいえ「幸楽」の拡張工事に伴う長期休暇は一ヶ月間限定。どんなに「頑固星」に馴染んでも、長期休暇の終了と同時に退職しなければならない。そのことを何だか名残惜しくも心苦しくも感じていた小島五月。そこへ、曙オヤジバンドの御近所ツアー終了を祝して小島勇(角野卓造)に率いられた一行が、旨いと評判の豚骨ラーメンを食べるため来店。田口誠(村田雄浩)が小島五月の姿に気付き、一同が等しく驚いていた中、小島五月は「ラーメン店の女房しかできません」と宣言し、「幸楽」で働くことこそが己の生き甲斐であると結論付けた。
最初から分かっていた結論ではあるが、ここにたどり着くまでの間、どこにも居場所がなく誰からも頼りにされない小島五月の姿を散々描いた末に、最後に漸く、若者たちのラーメン店で皆に頼りにされ、皆に愛される小島五月の姿を描き、視聴者を安心させたところで待望の結論へ結んだのが、物語の作り方として実に上手い。特に上手いのは、「頑固星」でも直ぐに馴染んだわけではなく頼りになったわけでもない点だろう。「幸楽」でも苦労を重ねたように、ここでも苦労を重ねて、それでも不屈の闘志で働いた結果、皆に頼られるようになったのだ。闘志を支えたのは、ラーメン店で働くことが生き甲斐であるという思いだろう。生き甲斐とは何か?という問題を、仕事と家庭の関係をめぐる問題とも絡めて探究した二夜連続の物語は、こうして綺麗にまとまった。やはり橋田寿賀子の筆力には驚嘆させられる。
しかし未解決の問題もある。残されたのではなく新たに発生した。
例えば、昨夜の前編において明らかに不穏な様子だった高橋文子(中田喜子)と高橋亨三田村邦彦)の夫妻の関係は、案の定、崩壊した。三度も結婚した両名は、三度目の離婚に至ったのか。三度目の離婚を生じた事情は昨夜の前編で明確に描かれ、語られたが、直接の原因は未だ明かされてはいない。
しかし憶測だけで云えば、高橋文子の旅行会社の得意客を高橋亨が奪い去ったのではないか。高橋文子は元来、旅行業界における所謂「隙間産業」を狙い、大手の旅行会社とは異なった視点による企画力だけで勝負し、個人を相手に呑気に会社を営んでいたが、対するに高橋亨は個人との信頼関係を維持するよりはむしろ己の手腕を誇示することのみを欲望し、ゆえに大きな仕事にしか興味ない様子だった。手腕を誇示したがる人物であるなら、仕事仲間を騙して裏切ってでも商売敵に己を売るような真似をすることも充分に想定できよう。
もっと重要な、未解決の問題として、高級料理店「おかくら」の行方がある。
昨夜の前編では、「おかくら」は一時は「女将」の本間長子(藤田朋子)の一存で廃業されかけていたが、本間日向子(大谷玲凪)の反抗に会い、青山タキ(野村昭子)、森山壮太(長谷川純)、長谷部まひる(西原亜希)がそれに同調した中、本間英作(植草克秀)の裁定によって存続されることに決した。家庭に帰るために仕事を廃しようとした本間長子は、こうして家族の中で孤立するに至っていたが、今宵の後編では、今や本間長子がどこにも居場所を持たないことが一段と強調された。
そもそも本間英作が妻や娘から離れて暮らしていたのは、訪問診療に従事し、朝でも昼でも夜でも未明でも何時でも患者の許へ馳せなければならない状態にあるからで、ゆえに妻がそこへ押しかけたところで邪魔者にしかならないだろうことは予想できた。家庭に帰るどころか、既に家庭なんか存在しなかった。
しかし、今さら仕事へ帰ろうとしたところで、実家「おかくら」には既に居場所がなかった。当然だろう。なぜなら本間長子は「おかくら」を勝手に廃業に追い込もうとした張本人であり、云わば「おかくら」の敵であるから。しかも、本間日向子なんかに店を守れる道理がない!と馬鹿にした本間長子を見返してやるべく、本間日向子も青山タキも森山壮太も長谷部まひるも、本間長子なんかいなくとも「おかくら」が成立すること、否、むしろ本間長子がいなくなった方が「おかくら」は成功することを証明しようとした。馴染み客を離さないと同時に新規の客を取り込めるように、料理を工夫し、メニューを充実させ、接客も磨き上げて向上させた。結果、馴染み客からは「女将」がいなくなって良くなったと評され、新たに来た若い客からも親しまれるようになった。
本間長子は見事に追放され、「おかくら」は本間日向子に乗っ取られた。しかし株主である野田弥生(長山藍子)、小島五月、高橋文子、大原葉子(野村真美)がこれを拒否するとは思えない。なぜなら岡倉家の姉妹は皆、「おかくら」の存続を望んでいるし、本間日向子は本間長子の娘で、正統な後継者であるから。たとえ本間長子がどんなに不服を云ったところで、何も不審な点はないと誰もが思うことだろう。
しかし、あの本間長子がこのまま引き下がるとも思えない。青山タキがいつまで健在でいられるのか、森山壮太と長谷部まひるがいつ有馬温泉旅館へ戻ることになるのかも分からない。「おかくら」は、今なお決して安泰ではない。
このように、未解決の問題が新たに発生したまま今回の二夜連続の物語は終了した。加えるに、小島家ラーメン店「幸楽」は無事に拡張工事を完了させ、もはやラーメン店とは呼べない程に豪勢な店になった。当然、このためにわざわざ新たな「セット」を拵えたわけであり、それを二度と使用することなく終わらせてしまう道理がない。近々続編があると予想するほかない。