SAOコミカライズ版マザーズ・ロザリオ第三巻

 葉月翼作画/川原礫原作/abecキャラクターデザイン『ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ』(KADOKAWA電撃コミックスNEXT)。
 第三巻。
 ソードアート・オンライン物語集における最重要の物語の、最重要の局面を描く最終巻。
 ユウキとアスナとの間の愛、そしてキリトとユウキとの間の連帯がじっくり描かれ、別れの場の、マザーズ・ロザリオの伝授と、大勢の妖精たちの集結にまで至る流れは読者の涙を誘わずにはいない。
 今あらためて思うに、「劇場版ソードアート・オンライン オーディナル・スケール」は、ソードアート・オンラインについて何の予備知識もないまま映画で初めて接する者でも、想像力さえ働かせれば充分に理解し没入し得るような形で、極めて柔軟に作られていたが、そんな中で殆ど唯一、予備知識のない者には謎のまま留まるしかなかった要素が、アインクラッド第百層「紅玉宮」の決戦におけるユウキとマザーズ・ロザリオの顕現に他ならなかった。それは当然だったろう。なぜなら余計な説明を加えれば意味の深さを損ないかねないが、意味を存分に表したければ映画一本を丸ごとそのために費やさざるを得なくなるから。しかし原作でもテレヴィアニメ版でもコミカライズ版でも、兎に角「マザーズ・ロザリオ」の物語を一瞥だけでもできたなら、映画の終盤におけるあの瞬間の意味は自明であり、何の説明も要らなくなる。
 ところで、映画の前半、オーグマーの拡張現実の世界「オーディナル・スケール」の大流行によってアミュスフィアの仮想現実の諸世界が衰退しかかっていたとき、それでもなおアルヴヘイム・オンラインガンゲイル・オンラインのような旧世界に留まり続ける人々として、シルフ領主サクヤ、ケットシー領主アリシャ・ルー、サラマンダー領ユージーン将軍、ダインとレコンの他にギルド「スリーピング・ナイツ」のシウネーとジュンが登場した。あのとき「スリーピング・ナイツ」の家にシウネーとジュンの二人しかいなかったのは、もはや二人しか生き残っていなかったからであるという厳しい現実を、今回、第三巻を読んで再認識し得た。そして二人がアルヴヘイム・オンラインの世界に留まり続けるのは、ユウキをはじめ別れた仲間たちの思い出の土地であるからであるということを、認識し直すこともできた。そしてユウキからは「お子様」と笑われてしまったスリーピング・ナイツのジュンが、シウネーと二人だけになってもギルドを守り続けていたところも味わい深い。
 映画「劇場版SAO オーディナル・スケール」は予備知識ゼロでも楽しめる作品だが、予備知識があれば意味がどこまでも豊かに深まるということの一例だろう。