旅行記一/東京国立博物館における戌年に因んだ新春の展示/旗の台の旗岡八幡神社に参拝/幸運にも京アニ渾身の新作ヴァイオレット・エヴァーガーデンを偶々観る

 休日。しかし明日の朝の仕事に備えて今日の内に移動しておく日。
 その意味で出張のための旅行記一。
 朝十時十五分までエレベーター保守点検が行われていたので家を出たのは十時二十分頃。道後温泉駅前を発つ空港行リムジンバスには間に合わない時刻であるので仕方なくタクシーを呼び、松山空港へ。
 松山空港には蜜柑ジュースが湧き出る泉のような蛇口があり、「みかんジュースタワー」と名付けられている。ニュースか何かで見かけた記憶があったが、漸く現物を見た。空港の窓から外を見るに雨が降り出していて、いかにも寒そうだった。家を出る前に暖房を停止させてしまったが、失敗だったかもしれない。帰宅時、とんでもなく冷え切った室内に震え上がることになるに相違ない。
 全国各地で雪が降り出していることの影響で飛行機の発着に遅れが生じているらしい中、十一時五十五分発の飛行機も少し遅れて出立。羽田空港JAL側に到着し、荷物を受け取ったあと、二時、フードコートの梅林のカツ丼で昼食。先ずは上野駅へ行こうと考え、東京モノレールの各駅停車に乗ってみれば、急行とは違って余裕で座ることができて意外に快適だった。浜松町駅で山手線へ乗り換えて三時頃、上野駅に到着。
 駅前「世界遺産」とも云える国立西洋美術館に寄って、玄関前にあるブールデルのヘラクレスを眺めてから直ぐに出て上野恩賜公園の噴水の彼方にある東京国立博物館、本館へ。
 本館の玄関前では生け花を準備していた。華やかだった。本館へ入ってみれば、正面の階段の踊場にも華麗な生け花が展示されていた。真生流家元山根由美作。
 本館二階の企画展示室では新春恒例イヴェント「博物館に初もうで」の特集展示「犬と迎える新年」が開かれていて、戌年に因み、円山応挙をはじめ様々な人々による犬に関する書画の名品が並んでいた。
 特に良かったのは柴田是真の「狗子図」。横には竹内栖鳳の「土筆に犬図」。宮廷絵画展示室には、重要文化財鳥獣戯画断簡」と、明治期の山崎薫詮による「鳥獣戯画」甲巻の見事な模本が並んでいた。水墨画展示室には伝狩野元信の「楼閣山水図屏風」。険しい山と、なだらかな山々。絵の中で絵を描く人。障屏画展示室には重要文化財、亜欧堂田善「浅間山図屏風」。江戸時代の洋風画だが、その趣は昭和初期のモダンな洋画を連想させる。江戸時代の着物の展示室には夜着が出ていた。着物の形をしてはいるが、あくまでも布団。しかし、これを着れば暖かく快適に過ごせるに相違ない。戌年に因んで、犬張子(又は犬筥)。解説文には、犬は正直な性格のゆえに魔を退けるので、こどもを守るため犬張子に守札を入れてその枕元に置くと書かれてあった。「正直な性格」という説明が面白い。書画展開展示室には、天皇の宸翰が幾つも並んでいた。目を惹いたのは、後陽成天皇山部赤人像」。「ももしきの大宮人はいとまあれや桜かざして今日も暮らしつ」。絵画も充実。宋紫石「日金山眺望富士山図」が強烈。板谷桂舟「源氏物語初音・胡蝶」双幅も華やか。田中訥言「十二ヶ月風俗図屏風」も楽しい。伊藤若冲の鶴図も出ていた。浮世絵展示室には、江戸時代初期の「縄暖簾図屏風」。美人の足元に犬がいた。これも戌年に因んだ展示。そして第二の企画展示室には特集展示「犬と迎える新年」の続編。明治期の橋本周延「江戸婦女図」でも美人の足許に犬。このように戌年に因んで様々な作品に犬が見える作品が多かったが、菱川師宣 の「北楼及演劇図巻」に描かれた犬は、流石に見つけにくかった。
 閉館時刻が迫ってきたので大急ぎ一階へ降りて、売店を抜けて近代美術展示室へ。巨大な展示ケースには横山大観の名作「無我」。横の展示ケースには、今尾景年の名作「鷲猿」をはじめ、柴田是真「雪中の鷲」、橋本雅邦「狙公」双幅、横山大観「松竹梅」六曲屏風一双が所狭しと並んでいた。中でも格別に素晴らしかったのは、安田靫彦 の傑作「五合庵の春」。良寛和尚を慕う子どもたちを豊かな自然の風景の中に描く。長大な掛幅が窮屈な様子で拡げられていた。本来であれば巨大な方の展示ケースに出て然るべきだろう。日本洋画の展示ケースには、高橋由一大久保利通像」と原田直次郎「三条実美像」。その間には高橋由一上杉鷹山像」。上杉鷹山侯は日向高鍋藩秋月家の出身であるから、宮崎が生んだ最大の偉人であると云える。
 売店で董其昌の図録一冊だけ購入。既に持っていたかもしれないが、取り敢えず購入しておいた。本館を出れば、玄関前で準備されていた生け花も完成したらしい。表慶館の夜景も一瞥し、閉館時刻の慌ただしさの中を退出。上野駅から大井町駅へ行き、東京急行電鉄(東急)大井町線へ乗り換えて旗の台駅で降車。ホテルに入り、宿泊室でiPhoneの充電をしながら暫し休憩したのち、夕方六時五十七分頃に外出。
 旗の台駅から荏原町駅までは徒歩七八分程度か。その間に続く荏原町商店街には古き良き商店街の趣があった。このような趣をとどめる商店街が今なお確り維持されているところが東京の良さであるとも思う。荏原町駅から直ぐ近くに旗岡八幡神社がある。境内の左手には立派な絵馬堂。ここにかつて伊予国今治藩領出身の沖冠岳が描いた絵馬「猿駒止」があった。現在はその写真が絵馬堂内に掲げられ、現物は社務所に保管されてある。品川区指定有形文化財八幡大神に参拝したのち、社殿の左手にある保管庫の大きな窓の中の、立派な御神輿や旗を眺めた。鳥居の脇には掲示板があり、明治大帝御製「とこしえに国まもります天地の神のまつりをおろそかにすな」のポスターがあった。説明版には旗岡八幡神社の由緒が説かれている。長元三年(一〇三〇)、平忠常の乱を平定するため下総へ赴く途上この地に宿営した源頼信氏神八幡大菩薩をお祀りしたことに始まる由。旗岡八幡神社旗の台駅の地名に云う「旗」とは、高台に立てられた源氏の旗に由来する由。実に高貴な由緒であると驚嘆させられた。
 ホテルへ帰る途上、道を間違えたとき偶々見かけた「荏原七福神」のポスターが楽しかった。あんなにも愛らしく描かれた大黒天や福禄寿や布袋尊を初めて見た。何とかホテルの近くまで戻り、旗の台駅の直ぐ近く、稲荷通 にある「とんかつ吾妻」という店に入ってカツ丼で夕食。素晴らしく美味だった。コンヴィニエンス店で飲物を買って帰着。深夜、宿泊室でテレヴィを点ければ、東京MXで「俺癒」放送中だった。斉藤壮馬のナレーションが相変わらず心地よかった。そして岡本信彦西山宏太朗を「俺癒サーの姫」と形容していた。そのあと「妖怪人間ベム」再放送。スタッフとして「効果 赤塚不二夫」が見えた気がしたが、あの赤塚不二夫と同一人物だろうか。
 さらにテレヴィを点けたままにしていたら、何だか素晴らしく絵の豪華な、綺麗なアニメーションが始まった。これこそは噂の、京都アニメーションの渾身の新作「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」(VioletEvergarden)だったのか。偶々観ることができて、実に幸運。そして合間には映画「中二病でも恋がしたい!-Take On Me-」のCM。