マイボス・マイヒーロー第五話

日本テレビ系。土曜ドラママイ★ボス マイ★ヒーロー」。
脚本:大森美香。原案:「頭師父一體」。音楽:高見優。主題歌:TOKIO「宙船(そらふね)」(ユニバーサル・ミュージック)[作詞&作曲:中島みゆき]。企画協力:明石竜二(ミレニアム・ピクチャーズ)。制作協力:トータルメディアコミュニケーション[TMC]。協力プロデューサー:小泉守&下山潤(TMC)。プロデューサー:河野英裕山本由緒日本テレビ)&山内章弘&佐藤毅(東宝)。企画:東宝。演出:石尾純。第五話。
初恋によって学校への愛着を抱き始めていた榊真喜男(長瀬智也)は失恋によって学校への愛着を失い、無断欠席、不登校を続けていた。そんな彼のことを心配し、学校に出てこさせようと熱心に説得を続けた「桜なんとか」こと桜小路順(手越祐也)。桜小路順の情熱的な説得は「マッキー」=榊真喜男への愛に動かされてのことだが、その愛の中には「マッキー」を信じることで自分自身をも信じたいという思いがあったようだ。かつて学校内に一人の友人もなく無口で無表情な「イジメラレ児」だった桜小路順にとって「マッキー」は初めての友人で、孤独な学園生活から救い上げ、「イジメラレ児」から変わることを可能にしてくれた「ヒーロー」なのだが、同時にその前提として、桜小路順の見るところ「マッキー」もまた数ヶ月間の学園生活を通して変わっていたのだ。初めての友人である「マッキー」が勉強に取り組み学級委員をも務めて前向きに変わってゆく姿を目の当たりにしたことで、桜小路順は自身も「変われる」ことを信じることができたのだ。桜小路順にとって「マッキー」は云わば「変われる」ことを信じ始めている自身の分身に他ならない。「マッキー」を信じることは自分自身を信じること。だから自分自身を信じることができるためには「マッキー」を信じることができなければならない。
桜小路順は榊真喜男を「友達」と呼んだが、以上のように考えるならその言葉には、かの古代の哲人アリストテレス倫理学講義において述べた「友とはもう一人の自己である」(heteros gar autos ho philos estin)[1170b6-7]の命題に通じるような含意があったと見ることができるだろう。
榊真喜男の問題が桜小路順の問題でもあるということ。同じ問題を共有するということ。それは意外にも学級一番の秀才、安原正(森廉)においても生じていた。「この学校を卒業しないとマッキーは父親の家業を継げない」という桜小路順の言葉が、父親の病院を継ぐため何が何でも医者になるべく必死に勉強し続けなければならない安原正の心にも深く突き刺さった。
同じ問題を抱える仲間であるということが他の生徒たちの間にも幾つか見られた。例えば、萩原早紀(村川絵梨)と小澤香織(垣内彩未)と早乙女唯(相馬有紀実)は、好きな男子に素直になれない点や、そんな女子の想いに鈍感な男子に何時も歯痒い思いをしている点で、梅村ひかり(新垣結衣)とともに「女心」を共有している。「星野くん」こと星野陸生(若葉竜也)と子分の伊吹和馬(佐藤貴広)&宝田輝久(伊藤公俊)は、名門校「セント・アグネス学園」に馴染めない劣等生の不良である点で榊真喜男に親近感を抱いているが、三者面談のため放課後の教室に久々に姿を現した榊真喜男の様子を、彼らが心配して覗き込んでいたところには彼らの仲間意識の深さが表れていた。彼ら三人組が教えてくれた「悪」は、本物の悪である榊真喜男にとってはガキの遊戯でしかなかったが、「星野くん」のため大人の女を紹介したり、三人組に絡んできた他所の学校の不良集団を容赦なく撃退したりしたあたり、既に榊真喜男が、全然「悪」ではなかった無邪気な彼ら三人組に「愛おしさ」を感じ始めていることを物語ってはいなかったろうか。
他方、榊真喜男が今なお「愛おしさ」を感じることができないでいるのが反真喜男派の三人組。長髪の諏訪部祐樹(広田雅裕)と、美形の平塚隆介(武田航平)と、体のデカい瀬川保(田中泰宏)。
セント・アグネス学園の保健室の先生、水島椿(もたいまさこ)は、三者面談のため学校を訪ねた榊喜一(市村正親)が廊下を颯爽と歩くのを見かけたとき「やはり、あの人は」と驚いていた。学園の「賢者」は榊家の秘密を知っているようだ。ところで、「賢者」水島椿先生は今回、榊真喜男の体質の変化を云い当てた。喫煙を制限した規則的で規律ある学校生活を通して健康で清潔な身体を取り戻し、内面から変化してきていたのだ。さて、白地にストライプ柄のスーツを着て三者面談の場、教室内で待っていた南百合子(香椎由宇)の前に礼儀正しくも華やかに出現した榊喜一は、真喜男の変化について述べ、深く頭を下げて感謝した。ここで南百合子先生の教育への情熱が存分に表出された。百合子先生は榊真喜男の登場を機に教室内に変化が起きていることを見逃してはいなかったからだ。変化は既にあの球技大会のとき生じていたが、南百合子はそれを見逃すことなく捉えて助力して伸ばして、変化を着実なものにしたのだった。教室の変化は南百合子先生と榊真喜男と桜小路順との共同作業だったとも云えるだろう。
それにしても黒井照之(大杉漣)が南百合子先生に一目惚れしてしまった。しかも例の肝試し大会での「斧」の突き刺さったメイド姿の南百合子に魅了されて。しかし確かに南百合子は、榊真喜男には「鉄仮面」と呼ばれてはいても、榊真喜男以外の人間から見れば「この世のものとも思えない」=絶世の美女なのだ。
[主要な登場人物&出演者]●榊真喜男(長瀬智也TOKIO])●桜小路順(手越祐也[NEWS])●真鍋和弥(田中聖KAT-TUN])●梅村ひかり(新垣結衣)●萩原早紀(村川絵梨)●南百合子(香椎由宇)●[私立セント・アグネス学園3年A組]宝田輝久(伊藤公俊)・牧信一(足立理D-BOYS])・伊吹和馬(佐藤貴広)・早坂雅人(西野成人)・安原正(森廉)・諏訪部祐樹(広田雅裕)・平塚隆介(武田航平)・瀬川保(田中泰宏)・星野陸生(若葉竜也)・フェイ・リン(チェン・チュー)・小澤香織(垣内彩未)・早乙女唯(相馬有紀実)他●南孝之(岩城滉一)●榊美喜男(黄川田将也)●水島椿(もたいまさこ)●黒井照之(大杉漣)●榊喜一(市村正親)。