東京タワー第七話

フジテレビ系。月九ドラマ「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」。第七話。
原作:リリー・フランキー『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』(扶桑社刊)。脚本:大島里美。音楽:澤野弘之河野伸。主題歌:コブクロ「蕾」(ワーナーミュージック・ジャパン)。プロデューサー:中野利幸。制作:フジテレビドラマ制作センター。演出:谷村政樹。
徳本寛人(高岡蒼甫)が十年間も会っていない母に会うため実家のある古アパートの前まで来たものの、どうしても中に入ることができなくて、入口の脇の窓から中にいる母の様子を覗き見ながら暫く立ち尽くし、結局、彼の働く自動車整備工場の工場主から与えられた未開封のままの勤続十年の賞与をその窓の枠に置いて、声もかけないで去った様子が実によかった。厚みのある大きな背中に寂しさが満ちていた。
出版社の編集部に勤務する鳴沢一(平岡祐太)が職場において大きな仕事を任せられるまでに頭角を現し得たのは、非情なまでに手際のよい仕事の進め方を学び得たからだったようだ。中山雅也(速水もこみち)のような仕事の遅い作家を容赦なく捨てて迅速に業務を処理するよう心掛けたことで着実に成果を上げてきたらしいのだが、そうした冷徹な態度は本来、彼の性分にはない。学生時代の彼と中山雅也との交友の歴史がそのことを物語る。彼が疲労で倒れてしまったのは、体力の限界による以上に精神面の無理によるものだったろう。食うものも食わずに働いたことに因る以上に、恐らくは本来やりたかったわけではない会社勤めの仕事の中で性に合わない冷徹な態度を取らざるを得なかったことに起因するだろう。中山雅也の仕事を手伝うため久々に絵筆を握ったとき、彼は生き返ったような思いだったろう。かつては彼もまた美術の道を真剣に志した少年だったのだからだ。