ドラマ王様の心臓-リア王

日本テレビ系。「夢二夜 シェイクスピア ドラマスペシャル」。第一夜「王様の心臓-リア王より-」。
原作:ウィリアム・シェイクスピア。脚本:井上由美子。音楽:糸川玲子。プロデューサー:前田伸一郎&小泉守&大野哲哉。制作協力:トータルメディアコミュニケーション。演出:雨宮望。
刈谷さくら(井上真央)による八百屋「リア王」の「演出」はどこから始まっていたのか。大型小売店ハジメヤ新宿一号店の夜、放浪する孤独の英雄、刈谷一(西田敏行)が三女さくらと恋人の金井俊太(福士誠治)、そして忠臣の運転手、剣持高夫(長門裕之)に見つけ出され、救われた場面からだろうか。或いはもっと遡るのだろうか。刈谷一と剣持が図って三女さくらに「演出」を依頼したのかもしれないが、ともかくも、この喜劇的な悲劇における重要な鍵は謎のまま残されている。しかし面白かった。当代随一のコメディアン西田敏行をはじめとして芸達者な人々が揃っていたし、長門裕之の演じる剣持の忠義の深さも時代錯誤で笑えた。佐野史郎は、ハジメヤの経営方針を軌道修正しようとする黒田数男という男の冷徹な恐ろしさに徹しながらも、最終場面では胸中に秘めた会社への愛着や社長への敬意をも感じさせて、やはり味わい深かった。井上真央福士誠治も似合っていたが、井上真央西田敏行も似合っていた。しかし何よりも、シェイクスピアの名作「リア王」を原作として大型小売店のワンマン経営者の孤独な晩期を描きながらも、三女を劇団員に設定することで劇中に「リア王」上演をも組み込んで物語の展開の核とした発想が楽しかった。制作を担ったのは二〇〇五年の傑作ドラマ「野ブタ。をプロデュース」を作った会社だろう。