ごくせん第六話

日本テレビ系。開局55周年記念番組。土曜ドラマ「ごくせん」。
原作:森本梢子「ごくせん」。脚本:横田理恵。音楽:大島ミチル。主題歌:Aqua Timez「虹」。挿入歌:高木雄也「俺たちの青春」。プロデュース:加藤正俊。制作協力:日テレアックスオン。演出:大谷太郎。第六話。
学園ドラマ、青春ドラマの類に恋物語の要素が一切ないことは殆どないだろう。テレヴィドラマ「ごくせん」では主に、主人公「ヤンクミ」こと山口久美子(仲間由紀恵)の実らぬ恋が描かれるが、もちろん生徒たちの恋の話もある。しかし物語の大きな部分を占めることはない。なぜなら少年男子たち同士の友情や、教師との信頼の話こそが重要だからだ。ゆえに女子との恋の話は「合コン」等の活動の話とも絡んで、云わば一種の祭のような形で描かれることにもなる。三年前の「ごくせん」でもそうだったが、今回のはその再来だったと云えるだろう。なかなか賑やかな祭だった。
その主人公は意外にも倉木悟(桐山照史)。相手は病で入院中の少女、藤村早希(小嶋陽菜)。入院先は、赤銅学院の近くにある夏目総合病院。心臓の病であることから父親升毅)は神経質にならざるを得ない。娘に変な男が近付くのを快く思うはずはないが、娘の方はむしろ心優しい少年との出会いによって闘病への活力を得ていたのだ。
このように両名の恋物語は、冒頭に呈示された設定の時点で既に、誰もが知るあの「悲恋」への接近を予感させる。しかもドラマ自体がそのことを巧妙に導いてもいる。それがヤンクミの恋の話だった。
ヤンクミは現在、夏目誠一(小泉孝太郎)に片想い。否、片想いであるのか両思いであるのか、今のところは未だ定かではない。夏目誠一は医師で、赤銅学院の「校医」でもあるが、本来の勤務先は当の夏目総合病院で、藤村早希を担当してもいる。第一話におけるヤンクミとの出会いのとき夏目誠一は英語の書籍「Romeo and Juliet」を携えていた。今宵の第六話ではそれが赤銅学院の玄関に落ちていたらしく、教頭の猿渡五郎(生瀬勝久)がその持ち主は誰かと思案していたのを見て、ヤンクミはその持ち主が夏目であることを明らかにし、仮病で腹痛を装って夏目総合病院へ行くと云い、序でにその書を持ち主に届けると称して学校を飛び出した。さて、ヤンクミからその書を受け取った夏目誠一は感謝し、映画に誘ったが、映画の題名は「富男と樹里江と」だった。
以上のようなヤンクミの恋をめぐる挿話からの類推で、倉木悟と藤村早希との恋が「ロミオとジュリエット」の悲恋によく似たものになるだろうことを予想したくもなってしまう。しかるにその予想は見事に外れる。なぜならシェイクスピアの描いた物語を成立させるような条件は(「源氏物語」の右大臣家の朧月夜の話なら兎も角も)現代の日本においてはあり得ないし、何よりもこの物語はテレヴィドラマ「ごくせん」に他ならないからだ。
ともあれ、テレヴィドラマ「ごくせん」において、話の中心人物よりも他の大勢の方が話を盛り上げることは時折あり得る。ことに今宵のような祭の回には当然そうならないはずがない。その意味で今回、特に目立ったのは神谷俊輔(三浦翔平)だった。なにしろ赤銅学院3年D組の「合コン番長」なのだ。彼の仕切りによって全員参加の合コン大会が準備され、皆が大いに盛り上がった。特に盛り上がっていたのは、意外にも、風間廉(三浦春馬)。「なんで俺にはカノジョができねえんだよ!」とは彼自身の言だ。「できない」ということは換言すれば今まで一度もいたことがないということか。あんなにも颯爽とした美少年なのに。実に意外で、そして面白い。
他方、逆に全く盛り上がっていなかったのは、既に恋人を見つけてしまっていた倉木悟と、合コン自体に全く関心がないらしい緒方大和(高木雄也[Hey!Say!JUMP])。何としても恋人を作りたくて必死になっている風間廉とは正反対。なぜだろうか。余裕があるのか。あのイケメン風間廉でさえ、あれだけ焦っているというのに。これまた意外なことではある。
美少年なのに恋人ができたことが一度もなかったり、逆に、恋人を作ることに興味がなかったり。現今のテレヴィドラマにおいてはそういう男子は周囲から直ぐ「女に興味ないの?」と疑われてしまうのが常だが、「ごくせん」では決してそうはならない。なぜなら「ごくせん」だからだ。男子高校生の純粋な友情を描く青春ドラマ世界に男子同士の恋なんか持ち込んでしまうと話が徒に混乱してしまうだけ。気配を漂わせるのは心地よいが、描いてしまえば全て台無し。子どもから御年寄まで皆が楽しめる娯楽作品に、余計な要素を持ち込んではならない…という制作者の判断であれば、多分それは正解だ。
それにしても、合コン会場で女子たちを前に興奮し「ガツガツ」していた男子たちの中には無論、原明大(真山明大)や松方広(矢崎広)もいたわけなのだ。学校の名を聞いただけで誰もが恐れる程に柄の悪い高校「赤銅学院」に通う不良少年にしては、余りにも気品のある顔立ちの、美少年の彼等があんなにも「ガツガツ」しているところを見ることができるのも、「ごくせん」ならではの見所と評してよいかもしれない。
今宵の見所と思うところをもう一つ挙げるなら、風間廉と緒方大和と本城健吾(石黒英雄)と市村力哉(中間淳太)と神谷俊輔が、段ボール箱に身を潜めて倉木悟を尾行していた場面。段ボール製のロボットのようだった。その形態を、レッドマーキュリーの如し!と形容してもよい。段ボール製ロボット扮装の神谷俊輔が振り返り転倒した風情も絶妙だった。彼は今回二度も転んでいたが、なかなか面白い感じだった。あんなにも美少年なのに、つまづくのが実によく似合っていた。