月九イノセントラヴ第八話

フジテレビ系。月九ドラマ「イノセント・ラヴ」。
脚本:浅野妙子。音楽:菅野祐悟MAYUKO。主題歌:宇多田ヒカル「Eternally-Drama Mix-」。プロデュース:中野利幸。演出:加藤裕将。第八話。
長崎殉也(北川悠仁[ゆず])は、現時点において、瀬川昴(成宮寛貴)と遠野聖花(内田有紀)とを相思相愛であると思い込んでいる。無論これは事実ではない。なぜなら昴が真に愛するのは殉也に他ならないからだ。彼が病身の聖花を引き取り、あたかも愛しているかのように献身的に世話をしているのは、そうすることによって殉也を聖花から解放することこそが、殉也を幸福にする道であると考えるからだ。
昴は己の幸福よりも己の愛する人の幸福をこそ望んでいる。それは彼が愛する人のために己を犠牲にできるような人物だからでもあるだろうが、それ以前にそもそも彼が、己の愛の成就する可能性を、全く信じてもいないからでもあるだろう。彼は殉也に愛を告白しようとはしていない。告白なんかをしてしまった場合に、失恋どころか、永年の友情さえも失ってしまうような最悪の事態になるのを恐れているのだ。だから彼は今まで殉也を見守り続けてきた。そして今は、殉也の苦難を、代わりに自ら引き受けた。
殉也に対して、殉也に対する己の愛を隠し続けている昴。しかし今、殉也は昴を聖花と相思相愛と見ている。この勘違いが続く限り、昴の密かな思いが殉也に知られてしまう心配はないだろう。これは昴にとっては望ましい事態だろうか。望ましいのかもしれない。なぜなら昴は殉也のために己を犠牲にする覚悟だからだ。でも、それでも内心は複雑だろう。彼は殉也を愛しているのであって聖花を愛してはいない。愛してもいない者を愛しているかのように思われてしまうのは、それも本当に愛している相手からそのように誤解された状態にあるのは、内心、流石に辛いはずだ。このような精神状態を何時までも続けることができるとは思えない。彼にも何らかの解放が必要だ。
獄中の秋山耀司(福士誠治)が、妹の秋山佳音(堀北真希)宛の手紙をしたためる場面にも悲しみがあった。なぜならそのときの彼の表情には充実感があったからだ。彼は、己一人が悪役を引き受け、己の人生だけを犠牲にすることによって、妹にだけは辛うじて幸福な人生を送らせてやることができるはずだと信じているのだろう。だから獄中にあっても、妹に手紙を書いている間は心なしか幸福な表情をしていた。しかし彼のこの幸福感は外界の残酷な現実によって既に裏切られていたのだ。余りにも報われない。