月九イノセントラヴ最終話

フジテレビ系。月九ドラマ「イノセント・ラヴ」。
脚本:浅野妙子。音楽:菅野祐悟MAYUKO。主題歌:宇多田ヒカル「Eternally-Drama Mix-」。プロデュース:中野利幸。演出:加藤裕将。第十話=最終回。
長崎殉也(北川悠仁[ゆず])には天罰が下ることもないまま、逆に幸福がもたらされた。彼は秋山佳音(堀北真希)と結ばれた。彼と結ばれることを望んだ遠野聖花(内田有紀)は、結局、彼には捨てられたわけだが、幸いにも瀬川昴(成宮寛貴)が拾ってくれた。だが、これは瀬川昴にとっては断じて幸福の結末ではあり得ない。なぜなら彼が愛するのは殉也であって聖花ではないのみか、そもそも男子であって女子ではないはずだからだ。
結局、彼は愛する殉也のために自己を犠牲にする人生を選択させられた。彼が自ら選択したかのように見えるかもしれないが、実はそうではなかったことを想起しておく必要がある。もともとは(第七話において)殉也が聖花を昴に一方的に押し付けたのだからだ。しかも昴自身の意向を一切確認することもないままに。それは昴にとっては断じて受け容れ難い事態だったに相違ないが、それでもなお、愛する殉也に幸福になってもらうため、ただそれだけのために彼は受け容れた。
ここで想像してみる必要がある。殉也とは決して結ばれることのない昴には今後どのような人生があり得たかを。もちろん殉也への片想いを一生抱き続けながら禁欲の人生を送ることもできるが、別の男子と結ばれる道を選択することもできるはずなのだ。例えば、第四話に登場したゲイ男子のユキオ(中村倫也)と一緒に幸福になることもできたはずなのだ。ユキオは遊び人のように見えるかもしれないが、実は案外ああいう感じのゲイ男子が恋人には一途な純愛主義者である場合は少なくないように思われる。昴のため一所懸命に尽くすユキオの姿が目に見えるようだ。
でも、昴が聖花の保護者役を引き受けてしまえば、もはや昴にはそうした選択肢がなくなってしまう。彼が幸福になるためには聖花を捨てるしかないが、そうなると聖花が生きてはゆけないだろうことが明白で、心優しい昴にその選択はあり得ない。以上のように考えるなら殉也と聖花と佳音には天罰が下されて然るべきであるのに、実際には彼等三人には幸福が与えられ、救済されるべき昴にのみ苦難が与えられたのだ。最悪の結末、最悪の物語であると云わざるを得ない。このドラマ制作者には、男は女を愛するものであり、女は男に愛されるものであるという偏見があるのだろう。
不幸中の幸と云うべきは、妹の佳音を幸福にするために己の人生を犠牲にしようとしてきた秋山耀司(福士誠治)が、妹の呪縛を断ち切り、漸く己自身の幸福のために生きる道を選び始めたことだろう。それだけが、この最終話における唯一の救済だった。