侍戦隊シンケンジャー第六幕

東映侍戦隊シンケンジャー」。
第六幕「悪口王」。脚本:小林靖子。監督:竹本昇。
外道衆が送り込んできた今回のアヤカシは、人々が密かに気にしていて他人からは云われたくないと思っていることを見抜いて敢えてその人々の目の前で云い当てて、心身ともに深刻な打撃を与えるのを得意技とする。もちろん侍戦隊シンケンジャー五人衆もその攻撃を受けた。シンケングリーン谷千明(鈴木勝吾)が受けた悪口は「おちこぼれ」、シンケンブルー池波流ノ介(相葉弘樹)は「ファザコン」、シンケンピンク=白石茉子(高梨臨)は「一生独身」、「殿様」ことシンケンレッド志葉丈瑠(松坂桃李)は「嘘つき」「大嘘つき」。
これらの悪口に彼等四名とも耐え切れなかった中、シンケンイエロー花織ことは(森田涼花)のみは「ドジ」「アホ」「バカ」「マヌケ」「ドンクサ女」と次々攻撃されたものの、見事に耐え抜いた。
しかし耐え抜き得たのは決して平気だからなんかではなかった。むしろ幼時に、病弱の姉が、自身に代わり侍戦隊に加わることになった妹ことはを不憫に思って、病床で泣いてばかりいたのを見て以来、幼心にも姉をそれ以上は泣かせたくなくて、今後は決して泣かないことを心に誓ったからだったのだ。ここにドラマがあり、千明の迷いもそこに絡んだ。
気になるのは「殿様」丈瑠への攻撃「嘘つき」「大嘘つき」のことだ。彼はどんな嘘をついているのか。もちろん「殿様」として生きることに一切の迷いがないというところだろう。それが恐らくは嘘なのだ。
彼が普通の若者としての感覚を持ち合わせていることは既に幾つもの場面において垣間見えてきたことであるし、実は普通以上に無邪気な面もあることを家老の日下部彦馬(伊吹吾郎)は知っている。丈瑠は本当は「殿様」としてではなく対等な友として他の四人と交わりたいのだろう。第五幕で彼等四人が遊園地へ遊びに行ったとき本当は丈瑠も一緒に行きたいと思っていたに相違ないことを、彦馬殿だけは見逃さなかった。でも丈瑠は侍戦隊の大将として生きることを選んだ。もともとは家柄によって定められただけの使命を、天命、天帝の命令として受け止めて自らの決意において引き受けた。しかし完全に納得しているわけでもなければ満足しているわけでもないはずなのだ。封建時代以来の主従関係が今や時代錯誤であることを、伝統芸能の家に生まれた流ノ介は余り深刻には受け止めていないのかもしれないが、丈瑠は充分よく知っている。そうした心の中の迷いを、揺らぎを、彼は誰にも知られたくはないのだ。恐らくはそれを知るはずの彦馬殿にさえも。
流ノ介は一度目の戦闘の際に「ファザコン」と攻撃されて打撃を受けた。流ノ介は自身にそうした傾向があるとは覚えたこともなかったらしく、深く傷付いていたが、「殿様」丈瑠は、伝統芸能の家において父は師でもある以上、流ノ介に多少ファザコンの気味があったとしても何等の問題もないだろうと申し渡して慰めた。「殿」の何と情け深いことか。ところが、二度目の戦闘の際、流ノ介は今度は「マザコン」と攻撃されて再び打撃を受け、流石の「殿様」も少し呆れていた。何に呆れたのか。二度も似たような攻撃を受けて、二度目でも似たような打撃を受けてしまっていたことの不甲斐なさ、忍耐力のなさに呆れたという面があるかと思われるが、同時に、恐らくは「ファザコンな上にマザコンも?庇い切れねえ!」という驚きもあったろう。